| 2004年 4月 23日(金) |
身体測定
私たちの多忙にかかわらず、学校行事は進む。
今日は身体測定の日だ。何しろマンモス校である。朝一番の3年生から始まって、丸一日を授業をつぶして行う。
空き時間がたくさん出来るから、今のクイズ大会に向けて追い込みの私たちにはむしろ好都合かもしれない。
春らしく、寒さと暖かさが交互にやってくるような日々が続いている。
今日はここ数日と比べれば肌寒いほどの天候だったが、元気盛りの我々には別に苦ではない寒さだ。
無論、わが校にはシャワー室完備の立派な更衣室もあるが、学年全体での行事となると到底足りない。
だから学生たちはみんな教室で制服を放り出していく。さすがに上半身だけだが、裸にさぶいぼを立てながら大喜びで歩き回るのだ。
私もみんなに倣って学生服の上着を取った。ほんの少し躊躇したが、面倒くさいのが先に立って脱いでいくことにした。
何しろここで脱いでいかなければ、3つある体育館と内診のための保健室を行き来する間、いちいち着替えるか、または制服を手にして歩き回らなければならないのだ。
1年のときは勝手が分からず、2年のときはあたりの無言の圧力に負けて私はその面倒くささを味わった。
だが今年はそんな面倒なことはしていられない。なにしろ、少しでも早く切り上げて慎吾をクイズ大会に向けて鍛えなければならないのだ。
シャツに手をかけるとあたりがどよめいた。
「あああ天音さま、もしやここで着替えられるのですか!!!」
「ええ。いけませんか?」
私の親衛隊の一員を気取るクラスメイトが文字通り泡を食って、私の足元に跪かんばかりの仕草で見上げてくる。
頬を染めたその顔は、どうしようもない動揺と、隠し切れない喜悦に緩んでいる。
「いけません! そんな心の準備が…いや、あうあう、みなの目に毒にございます!」
なんだか時代劇みたいな言葉遣いで、彼はぷるぷると首を振った。
…なんで私がこんなやつの言うことに従わなくてはならないのだ。
私は彼を冷たく見下ろし、そのまま無言でボタンをはずした。するりと肩からシャツを滑らせる。
「ああっ! 眩しいっ! 目がつぶれるっ!」
彼は本当に私の足元に跪いて大げさによろめいて目を塞いだ。
………私は原爆か?
これから先、プールだって入るし、体育のときには普通に着替えだってしているのに…。
クラスが変わるといろいろ変化があるが、これは今までにない変化だった。
そのままのしのし歩こうとすると、どこからともなくバスタオルを掲げた数人の男たちがやってきた。
良く見るとみんな見覚えがある。さっきの彼といつもつるんでいる、親衛隊の一員たちだ。
「天音様っ、われらが楯になります! どうかこの幕の中に入ってください!」
即席の幕───色とりどりなバスタオルの幕が、私の周囲をぐるりと回る。
なんだかもう私はそれ以上抵抗するのが空しくなって、仕方なく彼らに従った。
それに…、私は見てしまったのだ。さっきの彼だけでなく、何人ものクラスメイトがよろよろしながら、あるいはしゃがみこみ、あるいは鼻血を止めようと鼻柱をつまんでいることに。
どうやら私の裸は危険物らしい。
そんな状態で私の身体測定は終わった。
医師による内診から始まって、視力検査、聴力検査、そして、成長記録とも言うような計測があった。
身長、体重、胸囲、座高…ありとあらゆる物を測られた。
そこでまた衝撃の事実があった。
身長が3センチしか伸びていないのに、なぜか座高が5センチも伸びていることが発覚したのだ!
「ど、どういうこと…?」
私はめまいを堪えながら何度も計測表に目を走らせた。
座高分伸びた5センチはすべて胴体で、しかも足の長さが2センチ縮んだのだろうか?
ありえない…。胸囲も体重も、それぞれ去年より増えている。それは順調な成長の証であろうが、この座高だけは納得がいかない…。
すると、別のクラスで同じく身体測定に回っていた慎吾とばったり会った。
嬉しそうに擦り寄ってきた慎吾は、不思議そうな顔をしながらバスタオルの幕をかいくぐると、私がよろよろと持っていた計測表を取り上げた。
「おお、天音もちゃんと成長しとるな! 俺もな、身長が去年より5センチ伸びてるんやで!」
あんまり巨大になられても困るが…それより今はそれどころではないのだ。
「し、慎吾〜…。」
珍しく動揺しまくった私が事の次第を話すと、慎吾は高らかに笑った。
「なあんや、そんなに慌てることないで。座高はな、尻の厚みも入ってるんや!」
尻の厚み…? それは一体…?
「せやな。最近天音ふわふわしてて触りごこちがめっちゃええ思てたんや。
こう、手ェ伸ばしてギュッて握ると、手のひらを尻の肉が押し返してくる感じ? もう、ぷりぷりしてやわやわしてて、最高やで。」
慎吾は言いながら、その感覚を思い出したのか、よだれをたらさんばかりの顔をした。
慎吾の露骨な話に、バスタオルの輪が確実に広がっている。
しかし待てよ、それはつまり、私が…太ったということ?
「慎吾! 体脂肪率見せなさい!!!」
「うわっ、なんやの! 俺の体脂肪率はもうずっとジャスト10パーセントやで!」
「私は…21パーセント…。」
「ああ、全然普通や。気にするほどじゃないで。」
気にします!!!
青い柳みたいなスレンダーボディーが私の自慢だったのに!!!
確かに少し腕も胸も厚みが出てきて、少し筋肉がついたと思っていたけど…たんにお肉だったなんて!
断固、ダイエットを敢行せねば…!
こうして今年の身体測定は、私に大きな自戒をもたらして終わった。