| 2004年 5月 12日(水) |
随行員
生徒会室へ行くと、ちょうど祥太郎先生が顔を出したところだった。
まだ班の一員になる話がついていなかったようで、雪紀と直哉がそろって祥太郎先生に近づいていく。
祥太郎先生はいつもの応接セットに座り込んで、瑞樹が計算機を片手に奮闘している様子を面白そうに眺めている。
雪紀と直哉は先生の両側から回りこんで、無理やり一つのソファーに座った。
いくら大ぶりのソファーだと言っても、大柄な雪紀と直哉に加えて、祥太郎先生まで座るのでは窮屈な感じだ。
祥太郎先生もそう感じたのだろう。不思議そうな顔で、交互に左右を眺めている。
「先生、実はご相談があるのですが。」
雪紀が涼しい顔で切り出した。
「修学旅行のとき、随行員として私たちの班にご一緒していただきたいのです。」
「え? 随行員? 引率で行くけど、それって何?」
「私たちの班の1員として、ずっと一緒に回っていただきたいのです。」
「へえ?」
先生は間抜けな声を上げた。
「あれっ、教師はホテルで待機だって聞いたけど…。」
「私たち生徒会の班は、今のところ1名欠員なんです。学年主任の先生の許可もとってあります。ご一緒していただけませんか。」
言葉だけは丁寧だが、祥太郎先生を両脇からぎゅうぎゅう押して、一歩も譲らない構えだ。
「えー、だって、緊急時とか、ふらふら歩いてたら困るんじゃないの?」
「いまどきどこへだって携帯一本で連絡がつきます。生徒たちの行動範囲も概ね決まっています。そう不都合はありませんよ。」
「そうそう、もし一緒に行動していただけるなら、特別にホテルの部屋も直哉と同室にして差し上げますよ。」
「……………なにそれ?」
思案顔だった先生が、急に表情を引き締めた。
先生の左側に引っ付いている直哉の顔を凝視する。
直哉…目が血走ってるって…。
「…それって僕に何か特典? 別にものすごく嬉しくもないけど…。」
この流れで、直哉のその鬼気迫る表情じゃ、当たり前の反応だな。
雪紀のやつ、直哉に加勢しているんだか、邪魔しているんだか…。
直哉が見る間にしょぼくれていく。
「先生、私たちは生徒の管理もかねて行動することにしています。
私たちの日程は、生徒の平均的なプランに則ったものになります。
私たちとご一緒していただければ、自然一番効率よく生徒の管理ができますよ。
それに、私たちと同室していただければ、生徒の情報も入りやすいと思います。
まあ、こちらは無理にとは言いませんが…。」
私は見かねて助け舟を出すことにした。
雪紀のやつ…これくらいのいいわけなら、いくらでもひねり出せるだろうに、なぜあんな警戒させるようなことを言うのだろうか?
「うーん、まあ、主任のお許しもあるんならいいのかなあ。みんなの行動とかにも興味あるし…。」
祥太郎先生はちょっと肩を竦めたが、やがてにっこり笑った。
「いいよ、それじゃあ一緒に回ろうね。よろしくお願いします。」
直哉の顔がぱあっと輝いたのが印象的だった。
後で雪紀を捕まえた。どうも腑に落ちない行動が多すぎる。
「なに、ただシングルを確保したかっただけだ。」
しれっとした顔でそんなことを言う。
「班ごとに2名3名で部屋をチャーターするだろう。おまえたちが離れるわけはないし、すると直哉と同室決定じゃないか。」
まあ、それはそうかも。
「先生を巻き込めば3人部屋にはならないだろうし、先生にシングルを取らすと見せかけて、俺がそこにありつこうってだけの話だ。」
「…先生がシングルに入られたらどうするんです?」
「そのときはそのときさ。別に直哉と同室が嫌なわけじゃない。
だけど、直哉がみすみす先生を取り逃がすわけないだろう?」
そうだろうか? 私は大いに怪しいと思うぞ。
ということで、先生の一蓮托生も無事決まった。