2004年 5月 13日(木)

逆ナン

慎吾が、なんだかマニアックな漫画がほしいと言うので、池袋まで付き合った。
そこで絶滅危惧種に会った。
いまどき珍しいガングロの少女だ。

スイカカードのチャージが切れていたので、慎吾を駅前で待たせてチャージしに行った。
慎吾は寮に寄ったので、ラフなチノパンに、Tシャツを重ね着している。
ガードレールに寄りかかって所在なげにぼんやりしているのがなんだかとても似合っている。
Tシャツの袖を捲り上げている、太い小麦色の二の腕が、とても男臭くて、カッコイイのだ。
薄い生地を通して見える厚い胸板も、すらりと長い足も、それらに似合う強い短髪とあいまって互いを引き立てている。

あんまりかっこいいのでうっとりと遠くから眺めていたら、なんだか私の視界を汚いものが横切った。

しわくちゃの制服をだらしなく着た、もしゃもしゃの髪の少女たち。
なんだか落ち着きなく左右を見渡す横顔が見えれば、顔は真っ黒でなぜか目の回りだけが真っ白。さらに頬には意味のないシール。
もうとっくに絶滅したと思われていたガングロ少女だ。

私はムッとしながら慎吾の傍へ戻った。
その少女たちが、こともあろうに慎吾の傍まで言って、馴れ馴れしく話し掛けているのだ。

「ねえぇ、カレシ、今一人〜? あたしたち暇なんだけど、カラオケ行かない〜?」
これがうわさの逆ナンとか言うやつか…。

あさっての方角を見ていた慎吾は、やっと目の前にいる珍しいものに気付いたようで、ほんの少し姿勢を起こした。
「え、俺? どうでもいいけど、自分らいい色やな〜。」
慎吾…、持ち上げてどうする…。

「大阪弁だ〜! 超イケテル〜! 写メ撮らして〜! いい男ゲット〜!」
少女らはゲタゲタ笑いながら慎吾に擦り寄ると、携帯を高く片手に翳した。
あれで即座に記念写真を撮るらしい。
「ひゃー! 腕太い!胸厚い! あっちも凄そー!」
気安く触るな! それは私のだ!

足音高く近づきかけた私だが、ふと考えが変わった。
慎吾があんな子達になびくわけがない。もうすでに目が泳いで、私を探しているのが分かる。
どうやって慎吾がこの窮地を乗り切るのか…おおいに興味がある。

「じゃこれからカラオケ! もう一人欲しいな〜。探しながら行こ〜!」
少女たちが慎吾にべたべた触りながら腕を引っ張る。
慎吾は初めて困った顔になった。

「あんな、俺、人待っててん。」
「えー、それ男? ちょうどいいじゃん、一緒に行こうよ!」
「や、自分らとは傾向が違うってゆーか。」

おや。慎吾が珍しく赤面している。
私はよく聞こえるように、もう少し傍によってみた。

「俺の待ってる人はな、自分らよりは少しごついけど、俺にしたらちっちゃくて柔らかくて、とっても可愛い人なんや。」
「えー、男待ってるって言わなかった〜?」
少女たちは不思議顔だ。

「せやな、ま、そう言う分類したら確かにそうなんやけど、俺にしたらそんなのどっちでもええねん。
真っ白おて、細おて、俺が手のひらで大事に庇っておかないと溶けてしまいそうな人やねん。
だけど時々きつうて、信じられないくらい意地っ張りな意地悪するんやけど、そこがまたいいねん。ものごっつかわいらしいんや。
だからきっと、知らない間にツレが増えたら臍曲げるおもうし、そんなにやきもきさせとうないねん。
だから悪いけど、自分らとは一緒に行けないんや。堪忍な。」

慎吾はにっこり笑って少女たちの手をそっと振り解き、バイバイと手を振った。
慎吾…今のセリフは、…かなりキた…。

少女たちはしばらく顔を見合わせていたが、やがて小さく肩をすくめた。
「ラブラブなんだ。あたしらそういう恋愛って分からないけど、幸せそうな顔してる。
んじゃしょうがないね。その美人さんによろしくね♪」

少女たちは楽しそうに笑うと、あっさり帰っていった。
てっきり偏見と嫌悪を向けられると思っていたが…私は彼女たちをちょっぴり見なおした。

何にも見なかったふりをして慎吾の傍まで行くと、彼はさも嬉しそうに笑って立ちあがった。
先ほどの少女たちに向けたのとまったく違う笑顔を見て、私は、また改めて自分の気持ちに気がついた。
まったく慎吾には何度でも驚かされてしまう。
そして、際限なく慎吾を好きになっていく自分にも、驚かされてしまった。