2004年 5月 14日(金)

絶対反対!!

慎吾が遊びにきた。だいたい週末は遊びにくるのだが、今日は修学旅行の下調べと言う大義名分つきだ。
だが、慎吾は客間の大型テレビの前にどっかと大きなあぐらを落ち着けて動こうとしない。
そうこうしているうちに、いきなり敷いていた座布団を持って振り回し始めた。

「やった! 北勝力! 日本一や!!」
「暴れないでください、慎吾、お花が…!」

床の間におばあさまが生けた、清楚な菖蒲が危機にさらされている。
私は慌てて慎吾と床の間の間に立ちふさがった。
それでも私の声は一歩間に合わなかったらしく、私は顔面に座布団の直撃を食らってしまった。
もちろん、3倍返しにしてやったことは言うまでもない。

「で、何をそんなに興奮していたんです。」
ぷりぷり怒る私の前でシュンとしていた慎吾が、水を向けると急に顔をほころばせた。
「今日の結びの一番や! 北勝力が朝青龍を破ったんやで! 連続36連勝阻止や!」
大きく握りこぶしを振り上げたくせに、「あれ、35やったっけ? 37やったっけ?」ととぼけたことを言う。

お相撲…よりによってお相撲…。それは私の苦手のベスト5に入るかもしれない…。
今スポーツで話題と言えば、破竹の勢いの女子バレーだと言うのに、この筋肉は…。

「お相撲…ですか。そんなに楽しいものですか?」
慎吾は目をきらきらさせて大きく頷く。私のこめかみがピクピクしていることには気付かないらしい。

「せや! 天音もいっぺん見てみ! 血沸き肉踊るで!」
それは確かに彼らは肉踊っているが…。

「なあんの策略もなし! 真っ向力同士の対決や! 男やったらあこがれるで! 自分のパワーのみが戦力て!」
最近はお相撲も筋トレをしたりカロリー計算をしたり、いろいろ小技を利かせたりと、必ずしも力対決ではなくなっているのだが、慎吾にはそんなことはわからないらしい。
そう言えば、慎吾の得意のスポーツは、ルールの厳しい球技なんかではなく、ただ走るだけ、泳ぐだけ、力任せに突き進むだけと言うのがほとんどだな…。

「せや! 俺大学進んだら、相撲部に入ろうかな。この恵まれた身長と長いリーチを生かせば、結構イケル思うで! なあ、天音、どやろ。」
「お相撲! とっ、とんでもありませんっ!」
あまりの爆弾発言に、思わず声が裏返ってしまう。

「なんでやの? いいやん、お相撲。水泳より稼げそうやで。」
「稼ぐ必要ありません! あなたの一人や二人、私が養ってあげますから!」
「えー、俺の甲斐性どうなるん?」
「おっおっお相撲なんて、あんな肉の塊…。」
思わず絶句。握り締めた両手がプルプル震えてしまう。

「あっ、あんな、1分動くと汗みずくになって全身ブルブルで、全身の首と言う首が手首足首すべて埋没してるようなあんな…!
しっしかも、ロンゲを鬢付け油でギトギトに固めて、松脂を吹いてるみたいなあんな…。」
「きっつう〜! 天音、それはあんまり失礼やで。ほんなら寺尾を目指すわ。」
「ま、まだ言うか──────!!!」

絶叫してしまってから、慎吾のニヤニヤ笑いに気がついた。どうやらからかわれているらしい。
さては最近ダイエットに明け暮れている私に対する揶揄か…?
くっ、悔しい、この私が慎吾に手玉に取られるとは…。

それにしても、慎吾のお相撲志願、本当に冗談なのだろうな…?