2004年 5月 18日(火)

咲良の要望

 昼休み、私は一人で生徒会質にこもっていた。
 珍しく、信吾は付いて来なかったので一人静かに仕事が出来る。この所、運動部長関連の仕事が多かったが、文化部長がらみの仕事が全くない訳ではない。

 もうすぐ修学旅行も控えている。今回の旅行にあたって、写真部と美術部からの「課外活動」の許可願いが出されていた。

 写真部はせっかく京都に行くのだから・・・、と簡易撮影会?を求めて来たし、同じ理由で美術部は写生をしたいらしい。基本的には旅行は班行動なので部単位の活動は最初に学校側に許可を得なければならない。
 すでに提出されている書類に、記入洩れはないか、行動に不信な点はないか・・・私は一つ一つ細かくチェックを入れていく。

 一通り見て、問題なし、の判断を下し学校側に提出する準備に取り掛かろうと、私専用の書類を取りに立ち上がった。

 するするする・・・、と音も立てずに扉が開き咲良が入ってきた。

 きょろきょろと、室内を見回している。いつもは元気な咲良が妙におどおどしているのが不思議だ。


 「どうしたんですか?咲良」

 「あ、天音さん〜」

 今にも泣きそうな顔と声で私にしがみついて来た。

 「一体どうしたんですか?何かあったんですか・・・?」

 しがみ付いてくる咲良の顔を上から覗き込むようにして、私は微笑んだ。

 「た・・・大変なんです〜、こ・・・これっ」

 うるうる、と大きな目に涙を貯めて咲良は数枚の紙を私に寄越した。

 「何ですか?これは・・・」

 「天音さん、修学旅行に行く直前に・・・荷物のチェックをして下さい!信吾さんが・・・信吾さんがぁ〜」

 「信吾が?」

 必死の形相の咲良に少々気おされながらも、私は手渡された紙に目をやった。

 「・・・・・・・・・・・・!」

 瞬間、絶句してしまう。なんなのでしょうか、この紙一杯に書かれたアダルトグッズと思しき商品の名前は・・・。

 「昨日、寮で信吾さんがパソコンを貸してくれって来て・・・。普段、信吾さんはパソコンなんてゲームしかしないから・・・なのに、色々と文章を打ち込んでたみたいだからどうしたんですか?って聞いたら」
 「聞いたら?」
 「旅行に持っていくもん、注文したんやって嬉しそうに・・・」
 「嬉しそうに?」
 「で、何を買ったのかなって、後から履歴を使ってみたら・・・こんな、こんなお店に注文してましたぁ〜。おまけに、注文完了のメールまで、ご丁寧に俺のパソコンに・・・こんなの、もし雪紀さんが見たら・・・俺が注文したと思ったら・・・よっ、喜んじゃいますぅ!!!」

 そういいながら、咲良はひーひー泣いている。

 成る程・・・咲良が泣いているのはそこなんですね・・・、と妙に関心してしまいましたが・・・。

 あんの、筋肉お馬鹿はまだ諦めていなかったのですね。確かに、こうと思ったら何が何でもやり通すのは信吾の美点でもありますが・・・これは見過ごせませんね。

 「咲良、よく知らせてくれましたね。こんなもの旅行に持っていかれたら大変困りますので、私がきちんと対処しま・・・・・」

 「そ・・・それだけじゃないんです!」
  
 私の言葉を遮って、咲良は叫ぶ。

 「雪紀さんは・・・雪紀さんは、荷物の中にタバコを大きな箱ごといくつも入れてました・・・。あんなの見つかったら、雪紀さんが不良にされちゃう〜」

 ・・・・・今度は、さめざめと泣き出した咲良に、さすがの私も言葉に詰まる。

 確かに、旅行先で機が大きくなって飲酒をしたり、タバコを吸ってみたり、ナンパをしたりする生徒はいるでしょう。けれど・・・・・生徒会役員が率先してそんなことをしていいのでしょうか?

 私の頭はまたもや痛み出した。

 「大丈夫です、咲良。生徒会は当日の朝、ここで一度集まりますから・・・一般の生徒に知られる前に、私が必ず没収しますから・・・・・」

 「本当ですか?天音さん!」

 力なく言った筈の私の言葉にすら、縋り付くような咲良の視線が少々痛かった。