2004年 5月 3日(月)

健全な休日も良いかもね

 「わたくし・・・・あさりがたべたいわぁ・・・・」

 何気なく観ていたテレビのニュースで、「潮干狩り」を見たおばあさまが漏らした一言。
普段ならそのまま聞き流すが、今回は連休中うちで過ごしている慎吾の耳に入った事によって、事態は面倒な方向に流れていった。

 「俺・・・潮干狩りなんてした事無いなぁ・・・・」

ポツリと呟いた慎吾の目が輝いているのを私は見逃さなかった。
嫌な予感に駆られた私はその場を逃げ出そうとしたが、目ざといおばあさまに捕まってしまい、潮干狩りに行く羽目になった。

 といっても、行くのは私と慎吾。
お年を召しているおばあさまは、家でアサリを待っているそうだ。


 そして・・・ゴールデンウイークの真ん中の今日。
私と慎吾は朝早くから千葉県の某所に来ている。

 余程潮干狩りを楽しみにしていたのか、普段寝起きの悪い慎吾も早起きをしてきた。
 連休と良い天気の所為か、家族連れで結構な賑わいを見せている。

 「うぉ〜潮の香りがするのに、海が無い!!泳ぎてぇ〜〜〜〜」

ずっと先まで続く潮の引いた海岸を見て、慎吾が叫んだ。

 「慎吾・・・潮干狩りに来たんですから・・・・早く採って帰りましょう・・・」

私は潮干狩りなんて面倒な事はさっさと終わらせて帰りたい。
しかも、しゃがみ込んで砂を掻き分け貝を探すなんて作業、私の手や身体が痛んでしまう。
サンダルを履いているとはいえ、抜かるんだ足元もなんとも気持ち悪い。

 私は慎吾に道具を渡して、せっせとアサリを採り始めた。

 「よっしゃ!!ジャンジャン採るでぇ〜〜〜」

慎吾は意気揚々と砂を掻き出した。

 ある程度アサリがばら撒かれているらしく、初めての私でもそこそこの数を採れ何だか少しだけ楽しくなってきた。

 「まぁ・・・たまにはこういうのも良いもんですね・・・」

私は呟いて、慎吾のほうを振り返る。

 「慎吾・・・どうですか?採れました?」
 「おうっ!どや!?」

近寄って慎吾の手元を覗き込むと、私の何倍もの貝が網に入っている。

 「すごいですね・・・・おばあさまもきっと喜びますよ」

そう言って慎吾に笑顔を向けると、慎吾は嬉しそうに破顔した。
その笑顔が陽の光を浴びキラキラと眩しいほどで、私の胸はトクンと高鳴った。

 「天音も喜んでくれるやろ?」
 「ええ・・・」

潮干狩りで童心に返ったのか、慎吾はいつもより子供っぽい感じがして、私は思わず笑いを漏らしてしまった。

 それからまた少しだけ貝を採ると、私たちは家路へと帰った。



 「まぁ・・・2人ともお疲れ様・・・・」

沢山のアサリを持って帰ると、おばあさまが笑顔で出迎えてくれた。

 「すごいやろ?俺頑張ったんやで」
 「ええ・・・すごいですわね・・・・あら?」

慎吾の網を覗き込んだおばあさまは、言葉を止めて首を小さく傾げた。

 「どうしたんですか?」

不思議に思いおばあさまに尋ねると、おばあさまは少し寂しそうな顔で応えた。

 「慎吾さんの採ってきた貝ですけど・・・・半分は食べれない貝だわ・・・」
 「え?」
 「ほら・・・これ、アサリに似てるけど・・・『バカ貝』って言われる砂ばかりで食べれない貝ですのよ・・・」
 「そんなぁ・・・・うそやろ〜〜〜〜」

 おばあさまの言葉を聞いて、慎吾がその場に崩れた。

 そういえば・・・・私も昔聞いたことがあるような気がする。
砂ばかり吐いて食べれない貝があることを・・・・・

 「でも・・・天音さんの方はアサリですし、慎吾さんのも半分はアサリですから・・・ね?大丈夫。アサリ尽くしの料理が十分作れるわ」

 おばあさまはしょげこんでいる慎吾の頭を撫でると、笑いながら台所へと消えていった。