2004年 5月 7日(金)

班行動

連休の間に借りていた本を返そうと図書館に向かっている最中を、見たことのある男にさえぎられた。

「天音様! もう班はお決まりですか?」

ずいぶん急いた物言いだ。私は本が重いこともあり、ちょっとムッとしながら答えた。

「班ですって? 一体何の話です?」

すると件の男はびっくりしたように目を見張った。

「修学旅行の班分けです! もう今日が期限ですよ!
5人一組で班を作って、旅行先では基本的に班行動をするんです!
あのう…、もしまだお決まりでないなら、よ、よろしかったら我々とご一緒に…。」

最後がもじょもじょと小さくなっていくが、目だけはランランと輝いている。
そうか、5月の25日から29日まで、4泊5日の修学旅行があったな。
行き先は京都だったか…。

「優雅な天音様と古都の京都! まるで絵に描いたようにお似合いです!
僭越ながら私、もしご同行の栄誉を得られるならば、ごごごご案内いたします!
ほかの3人も京都に縁のあるもので固めました。天音様にご快適な5日間をお約束いたします!」

縋りつかんばかりだ。そう言えばここ数日、似たようなことを言ってきたやつが何人もいたな…。
京都にはおばあさまのお花の総本部があることもあり、私も何度か足を運んだことはある。
お坊ちゃま学校にしては地味な旅行先のような気もするが、何しろこんな物騒な世界情勢だ。
それに、海外には行きつけている坊ちゃんたちにはやたらな海外より、高級な国内のほうが受けるのだろう。

そのころになって、やっと彼のことを思い出した。
たしか、親衛隊の一員だったな…。まめなことだ。

一瞬、彼の提案に傾きかけた私だが、彼の尋常でない目つきを見て我に返る。
危ない危ない。自ら狼の群れに飛びこむほど、私は愚かではないのである。

「いえ、ありがたいお申し出ですが、結構です。当てがありますから。」
「そ、そんな〜。天音様のためだけに厳選したメンバーなのに〜…。」

半泣きの彼を無視して、とりあえず図書館に向かう。
本を返したら急いで生徒会室に向かわねば。
クラスが違う慎吾を私とつるませるためには、小細工が必要だ。


生徒会室には、すでに役員たちが集まっていた。
私はまっすぐに雪紀の方へ向かった。
「雪紀、修学旅行の班分けのことですが…。」
「ああ、言うのを忘れていた。俺とおまえと直哉と慎吾で、すでに届を出してあるから。」

けろりと言う。

「クラスが違うけど、生徒会役員ということで特例的に認めてもらった。
その代わり、なにかあったときは雑用係かもしれないぞ。」
「なにか…とは?」
「どこかの班のアホウが悶着を起こしたりとか、そんなようなことだ。」

面倒くさいが、そんなことはめったに起こらないに違いない。
それにしても雪紀のやつ…。手回しがいいんだか悪いんだか…。

「それにしても5人だからもう一人足りないんだよな…。」
「………祥先生だ…。」

直哉が鬼気迫る表情でぬっと首を突っ込む。

「俺たちの班の5人目は祥先生だ。俺が決めた。今決めた。絶対決めた。」

直哉…気持ちはわかるが、祥太郎先生は仮にも引率なんだぞ。班の一員って…。

「うーん、それじゃあ交渉してみるか…。」

引き受ける雪紀も雪紀だ…。

「最初はおとなしくクラス編成の班でいいかと思ったんだが、なんだか俺を巡って血を見そうないさかいに発展しそうだったんでな。
しょうがないから俺たちは一纏めだ。どうせ集めるなら、気心が知れてる方がいいしな。」

いつも傍若無人な雪紀が、なんだか妙にしおらしい。
修学旅行ではどうあっても咲良を連れて行けないからかもしれない…いや、この男なら、何らかの画策をしているのかも。

とにかく私たちは、こうしてかなり気ままな修学旅行を過ごせることになったようだ。

「そうだ、天音、旅行のだいたいの行動予定を提出しといてくれ。
班組みは俺がやったんだから、それぐらいやっといてくれるだろ。」

私が! 面倒くさいことを…!
仕方ない。来週末までに旅行の日程を組まなければならないことになった。
慎吾の意見でも聞きながら、作ることにしよう。