2004年 6月 1日(火)

お土産話

久しぶりに生徒会室に顔を出すと、咲良と瑞樹が、尻尾を振るように待ち構えていた。

「天音センパイ! 修学旅行楽しかったですか?」
「もちろんですよ。いい思い出が出来ました。」

旅行先からお土産に買ってきたお扇子を渡す。
「あなたたちには似合わないかとちょっと迷ったのですが、とても綺麗だし、何よりかさ張らないので思わずこれを選んでしまいました。」
男持ちのお扇子は地味なものが多いのだが、これはとても綺麗で小ぶりで、子犬ちゃんたちにも似合いそうだ。

「うわーきれい!」
「なんだか高そう…。こんな素敵なものもらっちゃっていいんですか?」

お値段は言われた通りちょっとお高めだが、私の気に入った子犬ちゃんたちが私の気に入ったものを持ってくれるのであれば、多少の散財には目をつぶる。
「ええ。気に入ってもらえたみたいで、私も嬉しいですよ。」
「やっぱり天音センパイはセンスいい〜。あ、駄洒落じゃありませんよ。」
「うん、慎吾先輩に比べたら大違いだよね〜。」

そう言えば慎吾は何を買ったのだろう。
おばあさまやお弟子さんたちに買うものも忙しくて、つい監視を怠ってしまったが。

「あなたたち、慎吾から何をもらったのですか?」
「えーと、阪神タイガースのペナント…。」

瑞樹が言いにくそうに答える。
そう言えば、お土産売り場で慎吾がなにか大騒ぎしていたな。
アレはそれを見つけて喜んでいたのか…。

「あと…、これ…。」
さらに言いにくそうに咲良がなにかを差し出す。
私はそれを見て、思わずくらりと目を回した。
なぜか外人女性の写真がついているボールペンだ。
逆さにしているときは、インクが垂れてくるのか、真っ黒な水着を着ているが、まっすぐ立てるとそれがヌードになると言うアレだ。
そんなもの…小学生でも買うまいと思っていたのに…こんな身近に買うやつが居たとは…。

「こ、これはこれで面白いですよ。うん。」
咲良…慰めてくれなくてもいいです…。

そうこうしているうちに、その噂の主が現れた。
慎吾は私たちが集まっているのを見つけると、さも嬉しそうに寄ってきた。

「慎吾…あなたって人は、ロクでもないものを…。」
「ん? なんの話? そう言えば、ケータイで写真も撮ったんやった。見る?」
「「見ます!」」

慎吾は得意そうにケータイを引っ張り出す。
普段使いこなせてないケータイも、さすがに旅行ともなれば必死に練習したのだろう。
慎吾はもたもたと写真を呼び出した。

「ほら! これ! どや! きれいやろ!」
何を見せているかと思ったら…例の花魁の写真だ。
「えー、これ慎吾センパイ〜?」
「ひゃー! きしょい〜!」
「きしょいとはなんやねん。失礼やな。他にもあるんやで。ほら、雪紀や。」

雪紀と聞いて、咲良がさっとケータイを覗き込んだ。
ところが、ピンク色に光っていたほっぺたが見る見る白く染まっていく。
そして何やらしくしくと泣き出してしまった。

「ど、どうしたんや、咲良!」
「だって、これ、雪紀さん、浮気してる…。」
「浮気? んなアホな!」

なにか嫌な予感がする。私は慌ててそれを覗き込み、そして案の定な写真にため息をついた。

新撰組のいかれた格好をしている雪紀に寄り添うように、女性が立っている。
ケータイの荒い画像だし、こちら側にほぼ背中を向けて、横顔の1部しか見せていないが、舞妓姿のその美女は、……どう見ても私だ。

「あの…咲良…。」
「こんなきれいな人…、雪紀さんも今にも肩を抱かんばかりで、雪紀さんたら京都へ行って羽を伸ばしてきたんだ!」
「ねえ、咲良、これもしかして、…天音センパイじゃないの?」
「え?」

瑞樹の声に、咲良はびっくりしたように顔を上げ、ケータイと私の顔をと忙しく見比べた。
それから、大きく息を呑む。

「ほんとだ! 天音センパイ、京都まで行って何をしてるんです!」
あのな…。その言い方は何…?

「天音だけやないで! 祥太郎先生も、ほら!」
「うわー! かわいい!」

二人の目が怪しく光った。

「今年は、行事って僕ら2年生が中心ですよね。いろんなこと設定していいんですよね!」
「そ、それはまあ、そうですけど…。」
「そうかあ、なんか今から、いろんなことが楽しみになってきちゃった〜。」
ふふふふ…、と声をそろえる二人…。何を企んでいるやら。

私はため息をついた。
3年生になっても、気が抜けない忙しい1年間になりそうだ。