2004年 6月 25日(金)

約束

 放課後、生徒会室に顔を出すと雪紀と直哉はいませんでした。咲良と瑞樹がいるだけです。

 昨日の夜この私が、ほとんど眠りもせずに考えた「隼人への復習プラン」を見せて差し上げなければ、と思っていたのに残念です。

 恐らく私の報復を恐れて、どこかへ逃げたのでしょう。

 折角・・・・・慎吾と二人で考えたのに。

 

 「あの、天音さん・・・」

 仕方なく手にした書類を雪紀の机の上に置くと、咲良が遠慮がちに声をかけて来ました。

 どうやら一昨日の私の行動に、未だ戸惑っている様子です。

 「どうしました?咲良」

 これ以上、咲良や瑞樹が怖がらないように・・・私が精一杯の笑顔で振り向くと、咲良が何かを持っています。

 「何なのですか?これは・・・」

 「雪紀さんが、天音さんに渡しておくようにって・・・・・」

 咲良が差し出したのは、今上映中の映画のチケットでした。それが二枚。

 「慎吾さんと行って下さいって、言ってました」

 可哀想に。

 咲良の顔には『天音さんが受け取らなかったらどうしよう・・・』と書いてあります。

 雪紀はいつも、こうやって咲良を利用するのですから。私が、咲良や瑞樹には酷い事をできないと思って・・・。

 「まったく、こんなもので私の機嫌が取れると思っているんでしょうか?」

 そう言いながらも私は咲良の手から、チケットを受け取りました。


 
 教室に残っていた慎吾を誘えば、二つ返事で「行く」と返って来ました。

 慎吾と二人で映画に行くのは、かなり久しぶりの事でした。基本的に、私と慎吾の見たい映画は食違っている事が多いので、どうしてもそうなってしまうのです。

 久々の映画館は金曜の夕方のせいか思いの他、混んでいました。

 「お!ちょっと待って〜な。俺、あの甘いポップコーン、好きなんや〜」

 目ざとくポップコーンを見つけて、慎吾は売店へと走って行きます。私が胸焼けするくらいの、大きなポップコーンと、ドリンクを買って来て上機嫌です。

 「やっぱ、映画館来たんやから、これは食べんとな〜」

 シートに座って映画が始まるまでの間、そう言いながらひっきりなしにポップコーンを食べていた慎吾の口が、映画が始まった途端に急に止まりました。

 珍しい事もあるものです。
 
 雪紀がくれたチケットは、いわゆる「パニックもの」と呼ばれる部類の映画です。異常気象が地球規模で起こり、人類を襲う・・というものでしたが、まさか「脳みそ筋肉お馬鹿」の慎吾がこんなに真剣に見るなんて。

 「・・・・・慎吾?」

 突然、慎吾に手を握られて私の方が驚いてしまいました。そっと横を伺えば、真剣な顔でスクリーンを食い入る様に見ています。

 あっという間に、2時間が過ぎました。

 映画が終わった後、慎吾は無言でした。とても真剣な顔をしていて、私が喋ってはいけないような雰囲気です。
 



 

 結局無言のまま、私の部屋へと来てしまいました。

 何かを喋ろうと思っても、上手く言葉になりません。

 黙ってベッドに座っていると、私の肩口に顎を乗せるようにして慎吾が抱きついてきました。

 「天音・・・・・・・・・」

 「どうかしたんですか?慎吾・・・・・」

 余りにも慎吾の態度が愁傷なので、どうしたらいいのか私も迷ってしまいます。

 「天音・・・。何があっても、どんな事があっても・・・絶対に俺が護ったるから・・・せやから、急にどっかに行かんといてな・・・?」

 ・・・どうやら、さっきの映画をみてそんな事をずっと考えていたようです。

 「慎吾?」

 更に強い力で抱きしめられて、私は少し苦しくなってしまいました。

 「約束、して?どんなに離れてしもても、絶対・・・俺を待ってるって」

 「もちろんです・・・約束しますよ?私が、貴方を待っていない訳ないでしょう」
 
 そう言ってやると、安心したのか慎吾の腕の力が少しだけ緩められます。けれど、私を放してくれる気はなさそうです。

 いつまでも背中に懐かれていては、非常に暑苦しいのですが。私は慎吾に気付かれないように、小さく一つため息を付きました。

 まったく。たかだか映画一つにここまで流されるなんて流石、慎吾ですね。・・・確かに、柄にも無く私も感動してしまいましたが。

 それでも、大好きな慎吾にこうして抱きしめられていれば幸せだなんて・・・思えてしまうのですから、私も始末に負えませんね。

 こうなる事を見越して、あの映画のチケットを寄越したとしたら・・・やはり、雪紀は侮れません。