2004年 6月 27日(日)

最終手段

 「もう・・・もう、いややー!」

 本日、何回目の慎吾の絶叫だろうか。私は聞こえなかった振りをして、手に持ったコーヒーのカップを慎吾の前に置いてやる。
 ついでにお茶菓子として、チョコレートも大量に差し出す。

 頭を使うときは、多少の糖分は必要ですから。特に、慎吾のように普段はほとんど使ってない脳を、ここまでフルに使えば・・・当然、糖分は必要でしょう。

 「もう、嫌や。こんなん見たない」
 
 コーヒーに手を伸ばすと同時に、慎吾は開いていた英語の参考書を床に投げてしまった。

 私は無言でそれを拾うと、きちんと閉じてテーブルの上に置いた。

 「慎吾、疲れました?」

 優しい声でそう聞いてやれば、ふさふさの尻尾がパタパタと振られる。

 「疲れたに決まってるやん〜。一体、昨日からどんだけ英語ばっかり詰め込んどんのや、この脳みそに。もう吐けるで〜。吐くと同時に、英単語も飛びでそうや〜」

 床をごろごろと転がりながら、慎吾はぶつぶつ文句を言っている。

 全く、困ったものだ。

 昨日から始めたばかりの勉強を、たった一日で投げ出されても困る。何といっても、試験休みに行われるであろう球技大会は、慎吾に頑張って貰わなくてはいけないのに。

 さて、どうしたものか・・・と、私は考える。




 「慎吾、何か食べに行きませんか?」

 「行く!!」

 「でもその代り、帰ってきたらもう少し勉強をしましょうね」

 「ほんなら、行かん」


 ・・・・・食べ物でも、釣れないとは。

 
 「では、散歩は?」

 「行かん」


 「じゃぁ後からビデオでも借りに行きましょう」

 「・・・・・・・・・・・」

 慎吾は無言のまま、まるで芋虫のように転がっている。

 きいっ!このお馬鹿慎吾は!!!

 仕方なく、私は最終手段に訴える事にした。


 「慎吾・・・・・」

 寝転がっている慎吾から良く見えるように、わざとその横に膝を付く。そして羽織っていた薄手のカーディガンをするり、と肩から滑らせる。

 その下はマオカラーのノースリーブが一枚。慎吾が暑がりなので、エアコンを入れると私には寒い。なのでどうしても一枚上着が必要なのだ。

 「うわっ、なんや!天音・・・ストリップでもしてくれんのんか?!」

 がばっ!と慎吾が起き上がる。よしよし、思った通り、喰いついたようですね。

 「・・・・して、欲しいですか?」

 「も、もちろんやないか!そんなん、決まっとるわ!」

 鼻息も荒く、慎吾が言う。そして、その手を私に向けて伸ばしてきた。

 「・・・・・勉強します?」

 「・・・・・・・・」

 脱がそうと伸ばされた慎吾の手が、ぴたりと止まる。

 「天音・・・・・?」

 思い切り、嫌そうに慎吾の顔が歪む。

 「慎吾が・・・その問題集を1ページやり終える度に、一枚づつ・・・脱いで差し上げますよ?」

 私の誘惑に慎吾の喉がごくり、と音を立てる。

 「・・・ほんまか?」
 
 「ええ、もちろん。後はこのノースリーブのシャツと、ズボンと・・・下着だけですから。残りは3枚ですね」

 「3ページ?」

 「そうですよ、3ページ。そうしたら私は、裸ですよ?ハ・ダ・カ」

 私は駄目押しに、ズボンのファスナーをそろりと下ろしてみせる。

 「しますよね?3ページ」

 「する!するから!約束やぞ、1ページやったら一枚、脱ぐんやからな!」

 慎吾は物凄い勢いで、問題集に取り掛かり始めた。

 ・・・とりあえず、これで今日のノルマは達成できそうだ。しかし、試験が始まるまでに後何日あるのだろう。

 いくらお馬鹿な慎吾でも、この方法も毎日では飽きそうです。早急に、対策をたてなければ。