2004年 6月 29日(火)

いずこも同じ…

今日も図書館で慎吾と勉強をするはずだったのに、待ち合わせの時間になってもやってこない。
仕方なく、私は慎吾を探しに出かけた。慎吾のいるところくらい、すぐに分かる。
案の定程なく慎吾を発見。体育館の裏の自販機の前で、缶飲料をぐびぐび飲んでいる。
シャツの下に着ていたランニングが汗でじっとり塗れている。小脇にボールを抱えているところを見ると、シャツを脱いでボールと走り回っていたらしい。

「慎吾! 約束の時間はとっくに過ぎていますよ!」
「あ、天音や!」
汗臭い体で懐いてくるな。暑苦しい…

「あんな、天音、俺今回真剣やからな、今度のテストまで願かけたってん。」
「願? 珍しいですね。一体何を掛けたんです?」
「うん、砂糖断ちしてんねん。」

願を掛けるなどと、ずいぶん古臭いことを…。もしかしておばあさまあたりからの情報かもしれない。
それにしても、慎吾もやはり今回だけはまじめにやる気なのだな。
しかし、慎吾に甘い物断ちなどできるのだろうか?
人一倍運動量が多いから、効果的なカロリー摂取を…などと難しいことは考えていないに違いないが、慎吾は無類の甘い物好きだ。
甘いものをとらないのは相当苦痛に違いない。と、私はちょっと感動しそうになって我に返った。
慎吾が持っている缶が目に入ったのだ。

「慎吾………そのジュースは…コーラじゃありませんか! そんなものを飲んでいて何が甘い物断ちですか!」
「甘い物断ちやないもん! 砂糖断ちやもん!」
「それだってお砂糖たっぷりでしょうが!」
「ちゃうもん! これはカロリーオフなんやもん。ステビア使てるのや!
本当はぎんぎんカロリーオンのめっちゃ甘い奴が飲みたいねんけどこれで我慢してるんや!」

情けない慎吾の言いように、私はムカッと腹がたった。

「ええい女々しい! そんな逃げ道の多い砂糖断ちなど成就しっこありません! 日本男児なら日本男児らしくお茶を飲みなさい、お茶を!」
「やや! これが俺の楽しみなのに! 天音のいけず! 鬼! 悪魔!」

慎吾はわざとらしい大きな仕草で涙をぬぐう振りをすると、脱兎のごとく駆け出した。
私はしばらくかっかとその後姿を見送って、それからはっとした。

逃げられた!

ずいぶんな前振りだが、慎吾の目的はこれだったのかもしれない。
私はため息をついてもう一度慎吾を探そうと足を踏み出した。
すると、向こうから走ってきた人影と、出会い頭にぶつかりそうになってしまった。
私より少し小さい人影は、驚いて飛び退る。白雪君だ。

「あっ、天音さん、すみませんでした!」
白いほっぺを真っ赤にほてらせて、白雪君は呼吸を荒げている。
やっぱりかわいいな、この子は。髪もそうだが、瞳が真っ黒ですいこまれるようだ。

「あのっ、天音さん、隼人を見かけませんでしたか?」
「隼人? いいえ、見かけませんよ。」
「あいつ、朝井先生の試験はボイコットするとか言って、逃げ回っているんです。一緒に勉強しようって言ったのに。」
「…それは穏やかではありませんね。」
「俺、もうちょっと探してみます。すみませんでした。」
黒髪をひらりとなびかすと、軽やかに駆け出していく。
隼人はでかくて私の好みには合わないけど、早くあの小鹿を私の傍にはべらせたいものだ。

それはそうと、どこでもおサルのしつけには苦労しているらしい。

私は軽くため息をついて、筋肉おサルをもう一度回収しに向かった。
今日は、予定以上にみっちりしごいてやろう。