2004年 6月 9日(水)

報復の報復・・・?

 昼休み、私はいつものように生徒会室へと足を向けた。

 こうして考えると、学校に来ている日で生徒会室に行かない日はほとんどない、という事に改めて気が付く。

 私は両手にしっかりと大振りの瓶を抱えて、周囲に気を付けながら歩いた。ここで、この瓶を落としたり、中身を溢してしまったら元も子もないのです。

 中身は昨日、私が虫と格闘して採った貴重な梅の実です。おばあさまが、梅酒の他に梅ジュースも作って下さって「生徒会の皆さんとお飲みなさい」と、渡して下さった大切なものです。

 きっと咲良や瑞樹は大喜びで飲んでくれるでしょう。でも、飲むにはまだ早いので、そこの所だけは気を付けないと行けませんね・・・。

 二人の喜ぶ笑顔を思い描いて、私は生徒会室の中に足を踏み入れた。

 「咲良、瑞樹〜、もう来ていますか?」

 入室と同時に私はそう声をかけた。けれども返事はない。

 ここに来る前に二人の教室に寄って、二人が居ない事を確認して来たのですから・・・来ていない筈はありません。

 どうしたんでしょう・・・と、室内を見渡せば、二人は会長である雪紀の執務机の前に立っています。

 とりあえず、手に持った瓶を邪魔にならない所へと置くと、私は二人が何を見ているのか・・・と背越しに雪紀の机の上を覗き込む。

 そこには・・・・・。

 「咲良、瑞樹・・・・・この、生き物は一体・・・・・?」

 思わず声が震えてしまいます。

 「あ・・・天音さん・・・・・」
 「さっき、来たらこれが雪紀さんの机の上に・・・・・」

 咲良と瑞樹が、もうすっかり見慣れてしまった・・・涙を溜めた目で私を振り向く。

 雪紀の机の上には、とても大きな水槽が鎮座ましましています。よく見れば黒いマジックで「生物室1」と書かれています。
 誰かが生物室からわざわざ持って来たことがばればれの、その水槽の中には。
 これでもか!と言うほど、大量の赤黒い物体がうじゃうじゃと・・・。
 
 どう考えても、見ていて気持ちのいいものではありません。これが、ロブスターとかでしたら売れるものを・・・。こんなものではどうする事も出来ないじゃないですか。

 「これは、ざりがに・・・ですよね・・・・・」
 しかも、色から言って間違いなくアメリカザリガニのようです。

 私の言葉に二人とも答えず、無言で水槽を見つめています。
 

 
 「そういえば、昨日・・・・・」
 咲良が、記憶を探りながら口を開いた。

 「昨日、どうしたんですか?!」
 私の胸中に不安が湧き上がる。こんな子供じみた悪戯をする人間の心当たりは一人しか思い浮かばない。一昨日、あれだけ雪紀に嫌がらせをされて・・・私達に情けない姿を見られた割には、泣き言の一つ、恨み言の一つも言って来ないなんておかしいとは思っていたのです。
 
 「確か、寮に戻ったら小学生の男の子数人と・・・慎吾さんが、何だか妙に楽しそうにしていました。手に網を持っていたし、バケツも持っていました・・・・。」

 「小学生?何で、慎吾が小学生と一緒に居るんですか?」

 私は初めて聞く事実に驚いた。

 「天音先輩知らなかったんですか?」
 「天音さん、知らないの?」

 私の言葉に、今度は咲良と瑞樹が驚いた様子で・・・。

 「慎吾さん、この近所の小学生と仲がいいんだよね?瑞樹」
 「うん、自分で『俺は小学生のヒーローや!』って、言ってたもんね〜」
 「そうそう!たまに原っぱでやる野球とかサッカーに誘われてるし」

 

 なるほど・・・。あの、筋肉お馬鹿は確かに運動神経は抜群ですから。どうせ子供と張り合って、ムキになって遊んでいるのでしょう。

 「では、間違いなく・・・このざりがにの山は慎吾なんでしょうね・・・・・」

 そう言いながら、私は非常に疲れを感じてしまいました。

 この状態は雪紀や、私達に対する嫌がらせに間違いなさそうです。


 雪紀が一番先に見つけるとは限らないのに・・・。現に、こうして咲良や瑞樹、私が気分を害してしまったではないですか。
 どうせ仕返しをするのならば、雪紀の机の中とか、ロッカーとか、鞄の中に入れれば良いものを・・・・・。所詮、慎吾が思いつく悪戯はこの程度と言う事なのでしょうか?

 一瞬、本気で別れてしまおうか・・・と、思ってしまいました。 

 とにかく、こんな状態では雪紀が来ても仕事になりません。生物室から持ち出した水槽も返さなくてはならないでしょう。


 「咲良、瑞樹。放送で、慎吾を呼び出して下さい。多分、そうやすやすとは出てこないでしょうから・・・放送後5分経ったら、私が慎吾の携帯に電話をします。ああ、それから・・・この水槽にかけるタオルか何かを探してきてくれませんか?」

 私がそう言うと、二人は良い子のお返事をして走って出て行った。


 ため息を一つ付き水槽を見れば、ざりがにはわらわらと動いていた。
 
 余りの気色悪さに、慎吾に対してのお仕置きを真剣に考えてしまいました。