| 2004年 7月 10日(土) |
怪しい…
突発の行事だが、月曜日は球技大会だ。
無理やり入れた日程だから、準備はさぞ大変だろう。みんなテスト明けで疲れている事だし。
私は生徒会役員といっても文化部長だから、本来は球技大会に振りまわされる必要はない。
だが、さすがに気が引ける。なんと言っても私のごり押しでこの日程を開けさせたのだし、発案は慎吾なのだ。
そもそもこれは慎吾が私の敵を討ってくれる為の大会で、いわば私怨を晴らすためのものなのだ。
今日からテスト休みだが、みんな生徒会室に集まると言う。
だから、私も参加を申し出た。この際、一人でも手は多いほうが良いはずだ。増してやそれが、この有能な私であればなおさら。
だが、雪紀は引きつった顔でそれを拒む。
どうしてだ? 私が動けば私の取巻きも動く。はっきり言って、私ほど使い勝手のいい人材はそうはいまい。
それをなぜ拒む?
怪しい…。
あんまり怪しいので、こっそり学校に赴いてみた。
思ったより大勢の人間が、あわただしく働いている。結構大規模に支度をしているようだ。
私が進むと人垣がざわめく。私の名前を小さく呼んでいる声が聞こえる。それはいつもの通り。
だが何かいつもと違うのは、その声の中に焦りが混じっていることだろうか。
これは一人とっ捕まえて、そのわけを問いたださねば…と足を進めかけたところを呼びとめられた。
「天音! こっちや!」
慎吾だ。とってつけたように、プール用のバッグを抱えて焦った顔でこっちに走ってくる。
今日は私のところになついてこないと思ったら、珍しく生徒会の準備に勤しんでいたというのか?
突進してきた慎吾は乱暴に私の腕を取った。
「今日も屋内プールで特訓や。天音、見に来てくれたんやろ?」
「いえ、私は…。」
「ええからええから。終わったらコーチの特製ジュースご馳走したるし! さあ、こっちや!」
慎吾にしては私の反論を許さない強引さで私の腕を引っ張る。
こうして私は拉致されてしまった。
ぼんやりと慎吾の綺麗なフォームを眺めながら、私は考え事をしていた。
今日はコーチも部員もいない。完璧な、慎吾の個人練習である。
こんなふうに突発的に誘い込むのは、どう考えても不自然だ。何か私の目から逸らしたいものがあるに違いない。
雪紀も慎吾も、体育館に足を向けさせたくないようだった。すると、球技大会の会場である体育館になにか細工があるということだな。
雪紀が考えることと言えば…、お立ち台を作るということくらいだろうか…。
私と慎吾のわがままにつき合わされるのだ。この球技大会が私たちのために行われる私的な行事であることをみんなに知らせるために、ものすごく悪趣味で目立つ貴賓席でも作っているのではないだろうか。
うん…多分、こんなところで間違いはないだろう。
派手好きな慎吾だから、その飾り立てられた貴賓席が気に入って、私の鶴の一声で却下されることを恐れているのだな。
あまり嬉しくはないが、慎吾が喜ぶのだ………まあ大目に見てやるか。
私は観覧席でため息をついた。まったくいつになっても子供染みたやつらだ。
やっとプールからあがってきた慎吾を捕まえて、私の推論を話してやると、なんとも気まずげな顔をしながら頷いた。
「そんなにこそこそすることはないじゃありませんか。雪紀の気に入らないことくらい、こっちだって百も承知ですよ。」
「や、だって、天音に怒られそうやもん。」
そう言いながらも、なぜか慎吾は少し安心したような顔をする。ちょっとなにかがひっかかる。
そこへ、大きな荷物を抱えた子犬たちと祥太郎先生がやってきた。
「あなたたち…、祥太郎先生までパシリに使っているんですか?」
「ん? 僕が手伝うって言ったんだよ。そんな怖い顔しないで。」
祥太郎先生はにっこり笑い、それから不思議そうに目を瞬いた。振りかえると、あからさまに慎吾が人差し指を口の前に立てて、沈黙を強いるポーズをとっている。
「…何をやっているんです、慎吾…。」
「あ、これはやな、これはその…。なあ、祥太郎センセ!」
私にはさっぱり筋道のたたない会話をして、慎吾は大きく笑った。
ややあって再びにっこりした祥太郎先生は、小首を傾げている!
「国見君も出るんでしょ。」
「ええ、そのつもりですが…。」
「それじゃ、前田先生によろしく言っとくから、頑張ってね。」
私はちょっとむっとして言った。
「私は大会中に怪我をするようなうかつなことはしませんよ。」
「分かってるよ。僕は相手の心配をしてるの。相手が国見君じゃ…ねえ。」
なんの話だろう? 私はそんなに強暴だろうか?
祥太郎先生の脇で、子犬たちがあわあわとしている。祥太郎先生はぷちんとぶきっちょなウインクをした。
「月曜日とっても楽しみだね、桜庭くん!」
子犬たちに半ば引きずられるように、祥太郎先生が退場した。
いったい今の目配せは何?