2004年 7月 13日(火)

球技大会・その2

バスケットの行われる体育館に移動すると、雪紀と咲良が焦った顔で出迎えてくれた。
「天音、直哉を知らないか。もうじき試合だって言うのに、あいつ…。」
「直哉なら探すまでもないじゃありませんか。」
たった今まで、祥太郎先生のバドミントンの試合が行われていたのだ。直哉なら絶対に見逃さないはず。
そう思っていると、涼しい顔で直哉が現れた。
「遅いぞ、直哉!」
「すまん。野暮用があってな。」
何事もなかった顔で、直哉は軽く手を振る。
しかし私は見逃さない。直哉の額に鉄柵の跡がついているのを。
たしかバドミントン用の体育館には、2階部分に回廊がついていて、そこに転落防止に鉄柵がついていたはず。
そこで跡がつくまで顔を押し付けて観戦していたんだな。なんと言うか…いじらしいヤツ。
それはそうと…どうしてそんなふうに隠れて見るのだろうか? マニアか?

バスケの試合は3ON3、生徒会側は雪紀と咲良、そして直哉だ。
対するのは、バスケ部の精鋭人組み。3人とも、慎吾に並ぶような長身ぞろいだ。
雪紀も直哉も決して小さい方ではないが、あの3人と比べるとかなり見劣りがする。
いわんや、咲良などはまるで大人と子供だ。

「万能ぞろいの生徒会役員が相手って言うから、どんな方たちかと思ったら、中学生が混じっているんじゃないの?」
バスケ部の一人がニヤニヤと笑いながら咲良を見下ろす。咲良は意志の強い目できっとそいつを見上げた。
「そっちこそうどの大木が3人揃って、高さだけで勝負しようとしてるんじゃないの? 作戦なんて高尚なこと、そのスカスカの頭には無理だね。」
「なんだと〜!」

試合の始まる前から、咲良がヒートして相手を煽りまくっている。
もともと人気の高い3人の試合が行われているということで、ギャラリーがどんどん増えている。
こんな衆人の前でそんなふうに扱き下ろされて、バスケ部の3人は完全にとさかに来たようだ。

試合開始の笛がなる。ライン上に立つ直哉。ご自慢の瞬発力で高く伸び上がると力強くボールを叩き落す。
鋭角に突き刺さるボールを咲良が拾い上げる。腰をかがめると、咲良の姿はますます小さくなる。
ボールを守るように姿勢を固めた咲良は、そのまま突っ走る。バスケ部の面々の守備範囲外のところを、咲良はすり抜けるように走る。
やっと追いついた一人が大きく両手を広げて立ちふさがる。キュッとゴム底を鳴らして立ち止まった咲良は視線を走らせもせず、斜めにパスを走らせる。
そこには雪紀が待ち構えている。
大きなストライドで前進、綺麗なフォームで伸び上がると、ゴールリングが小気味よい音を立てる。
あっという間に先制点。バスケ部は唖然として顔を見合わせてる。
ややあって観客席が大きく湧いた。見事な連携プレーだ。

「あっ、もう始まっちゃてる!」
祥太郎先生と瑞樹がやってきた。二人ともさっきの試合のままの姿で、短パンから伸びた足がまぶしい。
「どっちが勝ってるの?」
「もちろん、生徒会側ですよ。雪紀と直哉が揃っていて負けるわけないでしょう?」
「咲良もいるし、ですよね!」
頬を光らせて親友の活躍に嬉しそうな瑞樹ににっこり笑いかけてやると、瑞樹はさらに嬉しそうににっこりと笑った。

「おい、祥太郎、つめろよ!」
そこへのっそりとやってきたのは、不機嫌そうな顔を隠そうともしない隼人だ。
隼人は腰で祥太郎先生を押して詰めさせると、我々が寄りかかっていた柵に割り込んできた。
「なんだよ、隼人はあっちで見ればいいだろう!」
果敢にも瑞樹が噛みついている。隼人は忌々しそうに瑞樹を見下ろした。
「こっちの方が兄ちゃんがよく見えるんだ。それにあっちはバスケ部の奴らばっかりで、居心地悪いんだよ。」
「まあまあ、瑞樹くん、隼人くんもこっちの応援なんだから、一緒がいいじゃない。」
「え〜〜〜、でもぉ〜〜〜…。」
不満そうな瑞樹を置き去りに、試合はそのまま進む。

ゲームは結構競っていた。
やはり長身の壁は、いかに息のあった3人でも崩すのは難しいのだろう。見事なシーソーゲームになっている。
生徒会側が目配せを交わした。首尾の位置を交代したらしい。
後方についていた直哉が前に出る。
ドリブルから大きく踏み切って高く飛びあがる。簡単にゴールまで届いてしまう跳躍力。綺麗なダンクだ。

「うわっ、すっごい! 直哉くん、かっこいい〜!」
「あったりまえだ! 兄ちゃんの瞬発力は天下一品なんだぞ!」
なぜか隼人がふんぞり返って自慢している。祥太郎先生は嬉しそうに手を叩いて、うんうんと頷いた。
「先生、先生が応援したら、直哉センパイもっと張り切って得点上げますよ!」
「え〜、そうかなあ〜?」
「何言ってんだ、祥太郎なんかの応援より、俺の応援の方が百倍兄ちゃんには効く!」
…それはないだろう。

「え〜、そう? それじゃ比べっこしてみようか。」
祥太郎先生が妙な提案をする。あれっ、首を傾げてるな…。
「おうっ、ぜってー負けねえ!」
隼人も簡単に乗るし…。

直哉にボールが渡った。前に立ちふさがる大男に遮られて、パスを出しあぐねている。
「兄ちゃ──────ん! そんなヤツぶっ倒せ──────っ!」
響き渡る隼人の大声。直哉は後ろから突き飛ばされたように、思わず体制を崩した。あっけなくボールを奪われてしまう。
振りかえった直哉は嫌〜な顔をしていた。
「なっ、なんだよう兄ちゃんっ! 俺の応援でハッスルしろよ!」
「おまえの大声は腹に響く。てか、ハッスルとかいうな、恥ずかしい。」
試合中に兄弟喧嘩するなって…。

「じゃあ、今度は僕の番だね。」
なんだか嬉しそうな祥太郎先生は、少し身を乗り出した。効果的な場面を狙っているようだ。
また直哉がボールを拾った。そのままドリブルで抜いていく。あれはまっすぐダンクの構えだ。
ボールを掴んだ。そのまま踏み切る。一歩、二歩…。

「直哉く──────ん!  愛してる──────!」

空中で直哉が固まった。私にはそう見えた。
次の瞬間、ものすごい音がした。直哉がボールを持ったまま、ゴールは愚か着地にも失敗して、審判席に突っ込んだのだ。

「あっはっは。やっぱり僕の応援の方が効く! 僕の勝ち!」
「くっそー! 兄ちゃん、情けねえぜ!」
それで勝負ついたのか? それでいいのか隼人?
てゆーか、二人とも直哉の心配しろよ…。

こんなコート外の熱戦も繰り広げられたバスケは、生徒会側の辛勝に終わった。

次はなんだ? そろそろ慎吾の出番か?