| 2004年 7月 16日(金) |
球技大会その3・乱入者たち
「何やってんですか!先生!」
モニターを見ていた直哉の行動は素早かった。物凄い速さで教官室を飛び出し、大体育館のギャラリーの山を蹴散らし、リングサイドに辿り着くと大慌てで祥太郎先生を呼んだ。
呼ばれた本人は小さな体で、瑞樹の足を掴んでいる相手の太い腕をどうにか引き剥がそうと必死だ。
「君!こんなに大きな体で、何て乱暴な事するの?!早くその手を離して!」
腕に噛り付かんばかりの勢いで祥太郎先生は喚く。
「先生!危険ですから早く降りて下さい!」
負けじとリングの外から直哉が叫ぶが、祥太郎先生は聞く耳を持たない。
「もう、どうして先生の言う事が聞けないの?早く、離してあげなさい!」
「だから危険ですって、言ってるじゃないですか!先生!!」
まったく噛み合わない祥太郎先生と直哉の会話に、リング上の瑞樹とその相手は呆然としている。
「早く、瑞樹くんが怪我しちゃうじゃない!」
「先生こそ怪我するだろう!早くここに来て下さい!」
「煩いよ、直哉君!だいたい君たちがこんな事考え付くから、瑞樹くんや咲良くんがこんなに危ない目に合うんじゃないか!」
「俺が考えたんじゃありませんよ!雪紀が考えたんですよ!」
どうしてだろう。最早プロレスではなく、痴話喧嘩にしか聞こえないのは。
「そんなに僕に降りて欲しかったら、直哉くんがこんな奴やっつけちゃってよね!」
・・・・・・・出た、祥太郎スペシャル。
「俺がこいつを倒せばいいんですね?いいでしょう、簡単ですよ」
売り言葉に買い言葉。
直哉は制服の上着を脱ぐと、ロープを潜ってリングの中へと入っていった。
「危ないから退いていて下さい、先生」
「え〜」
「え〜、じゃないです。もう怪我したくないでしょう?」
直哉にそう言われ、春先に肋骨を折ったことを思い出したのか祥太郎先生はしぶしぶといった様子でリングの隅に移動した。
「おい、その手を離して俺の相手をしろ」
瑞樹の足を掴んだままだった生徒は、何故か文句も言わずに直哉に従う。とにかくどんな形であれ、掴まれていた足が自由になった瑞樹は急いで祥太郎先生の所へ行く。
「本当に我侭な人だ・・・・・倒せばいいんですよね?」
直哉が小さな声で呟く。どうやら祥太郎先生の事をいっているらしい。
ふいに、直哉の体が反転した。
何の前触れもなかったそのキックに、相手は倒れる。
どうやらそれは「延髄切り」という技らしい。放送部によって実況中継が入る。レフェリー役の生徒が、カウントを取っている。
余りの早業に、一体何が起こったのか私には分からなかった。と思ったら、先ほど同様ビデオの巻き戻し再生が始まる。
本当に一瞬のうちにそれは起こっていた。
直哉が体を捻った瞬間、足が高く上がって相手の首筋にキックを決めていた。見惚れてしまうほど、一部の隙も無い綺麗な動きだった。
そう言えば・・・直哉は剣道の他に、空手もやっていたのだな。今頃になって私は思い出す。
直哉は、相手を倒したというのに顔色一つ変えていない。けれど祥太郎先生は何故か物凄く嬉しそうだ。
これで一勝、と思ったらレフェリーは相手チームの勝ちを宣言していた。
理由は「反則負け」。
祥太郎先生が乱入した上に、直哉まで。おまけにモニターに映っていないところでは、雪紀が咲良を押さえつけていた相手をぼこぼこにしていたらしい。
・・・・・・・・始めから、雪紀と直哉が出れば良かったのではないだろうか。
さぁ、次は・・・・・私と慎吾か?