2004年 7月 17日(土)

球技大会その3・ヒーロー&ヒロイン登場

 控え室と化している体育教官室に、瑞樹たちが戻ってきた。

 「ごめんなさい、天音さん〜」
 「負けちゃいました〜」

 咲良と瑞樹は、叱られた子犬が耳と尻尾を垂らした様な風体で私の顔を見上げる。

 「いいですよ、そんな事は。それより怪我はありませんでしたか?」

 「大丈夫ですよ〜」
 「ね〜、そんなに怪我するような事してないもんね。結局、雪紀さんと直哉さんが倒しちゃったし」

 おや?何となく子犬コンビは不満そうだ。少々暴れ足りなかったらしい。

 私は素早く二人の怪我の状況を確認する。一応、目だった外傷はないようだ。所々青痣が出来ている程度だったので安心する。

 「次は天音さんの番ですよ!」
 「俺達がセコンドに付きますから、頑張って下さいね〜」

 何故だろう。咲良と瑞樹がキラキラした瞳で私を見つめるのは。

 「それより、慎吾はどうしたんですか?」

 今更だが、慎吾の姿がどこにもないのだ。生徒会室からいつの間にかいなくなったきり、一度も姿を現していない。

 「慎吾なら、すぐ来るさ。それより時間だぞ?」

 今回の騒動の首謀者、雪紀が壁に寄りかかって腕時計を確認する。どうしてこいつは、いつもこんなに偉そうなのだろう。咲良もこんな「俺様馬鹿」の何処が良いのだか。

 「・・・・・・・さぁ、二人とも。行きましょうか」

 取り合えず私は雪紀を無視する事に決めた。

 「じゃぁ、俺達が先に行きますから!」
 「天音さん、行きましょう〜」

 嬉々として子犬コンビが私を先導してくれる。二人の後ろに着いて、体育館の中に足を一歩踏み入れた瞬間。

 『うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!』

 地面が揺れて、天井が崩壊するのでは・・・と思うほどの歓声が私を包んだ。そして流れるBGMはワルキューレの騎行。

 「皆様、お待たせいたしました!本日のメインイベント、ヒロインの登場です!」

 マイクを持った実況がそう叫ぶと、周囲から『天音様』コールが巻き起こる。・・・悪い気分では、ない。

 私は銀色に輝くマントを棚引かせ、手には白い鞭を持って前を行く咲良たちの後ろを歩いた。

 前を歩く咲良たちは必死で私に触れようと伸ばされる手を、その体を使って阻止してくれている。

 そしてとうとうリングの下まで辿り着く。

 「青コーナー、白鳳の誇る氷の女王、クイーン・天音〜」

 完全に悪乗りしているであろう実況が、私のありがたくも無いリングネームを呼ぶ。私が「クイーン・天音」だという事を、今始めて知った。

 盛り上がっている会場のテンションを下げてはいけない。仕方なく、私は咲良と瑞樹が開けてくれたロープの間に体を滑り込ませると、マントを宙に投げる。

 次いで手にした鞭を、一閃。ヒュンと言う音が空を切る。

 一瞬静まり返った会場は、更に大きな歓声に包まれヒートアップする。そこかしこから「女王様〜」「天音様〜」という野太い声が聞こえる。

 そして。私のテーマ曲であったらしいワルキューレが終わり、打って変わってハイテンションな曲が流れ始めた。

 聞いた事のある映画の曲だ。確か・・・刑事が二人出てきて大騒ぎをする・・・・・。

 そんな事を思っていると、私が入ってきたのと同じドアから誰かが走りこんで来た。

 「さぁそして、青コーナーもう一人は!我が校が誇るマッスルマン!踊る筋肉、飛び散る水飛沫!その名もキング・バタフライ!」

 実況がそう告げた瞬間。青いコーナーポストに、慎吾が立っていた。

 ・・・・・・・・・何という、恥ずかしい姿だろう。

 ぴちぴちの競泳水着には悪趣味な金ライン。そしてゴム製の、金色のスイミングキャップに・・・・・蝶を模った紫ラメ入りのゴーグル。一体どこにそんな怪しげなものが売っているのだろう。そして、背にはマンとの代わりらしいスポーツブランドの大判のバスタオル。

 「ヒーロー登場!とうっ!」

 片手を腰に、もう片手は天を指差して慎吾はコーナーポストから飛び降りた。

 ・・・・・・・・・・会場を割れんばかりの大爆笑が支配している。 

 「待たせたな、天音〜。なんや、俺があんまりにも格好よくて見惚れてもうたんか?」

 恥ずかしさに絶句していた私の顔を覗き込んで、慎吾が見当違いな台詞を嬉しそうに吐いた。

 「寄らないで下さい!この、変態!!!」

 「うわっ!何すんねん、痛いやないかっ!」

 私の鞭は隼人を叩く前に慎吾を叩く事になってしまった。