2004年 7月 28日(水)

男子の本懐?!

 「さぁ、今夜は朝まで騒ぐで〜!野郎共、準備はええかっ?!」

 慎吾の声に、寮生が「おお〜!」と雄たけびを上げた。

 「あ、それから。一気飲みは、禁止やからなっ!飲めんやつに、むりやり飲ませるんも禁止や!わかってるな?!」
 
 「うお〜!」

 ・・・・・・・・・・・どうしてでしょう。慎吾が「山賊」とか「海賊」の親玉に見えるのは。

 「ほなら、白鳳寮恒例の飲み会開始、や!」

 言うが早いが、慎吾が手に持ったビールの缶のプルトップを引き上げたと思ったら。それこそ一息に飲み干して行く・・・500mlもの缶を。

 そして。
 
 「く〜!上手いなぁ〜!ホンマ、ガマン大会の後のこれがたまらんのや!」

 口の端から零れてしまったビールを、ぐいっと手の甲で拭うと新品のビールに手を伸ばす。それが合図となってか、三々五々に寮生達が飲酒を始める。

 ・・・・・・・壁際で、見てはならないものを見てしまったように、固まっているのは1年生か。


 先刻慎吾のお馬鹿に付き合わされて「ガマン大会」なるものに強制参加させられた私だったが、汗まみれの体をシャワーを借りですっきりさせて・・・着替えて戻ってきてみれば。

 この。
 目の前に。
 繰り広げられている、騒ぎは何なのだろう・・・・・。

 先ほどの「厨房・食堂」から一転、場所は「レクリエーションルーム」なると所に変わっていた。

 本来なら、寮生全員を集めて会議等開くであろうこの部屋に元々置いてあったであろう長机はすべて壁際に寄せられている。
 そして顕わになった床には、巨大なブルーのビニールシートが敷き詰められており・・・そして、その上には。

 所狭しと「ビール」「カクテル」「つまみ」類が転がされていた。

 私をシャワー室まで呼びに来た隼人や白雪も、口を開けて室内の異様な光景に見入っている。

 「なっ!なにやってんだ!?筋肉蝶々!寮の中でこんな事していいと思ってんのか?!酒だぞ?これっ!!!」

 私が慎吾を叱り付ける前に、隼人が怒鳴った。・・・本当に、思った以上「常識」に拘る隼人は案外いい番犬かもしれない。

 どかどかと慎吾の元まで歩いていって、その手に持っているビールの缶を奪い取る。
 
 「あんた、寮長だろっ!こんな事して、学園にばれたらどうする気だ?!ええ?あんた一人の責任でどうにかなる問題か?これがっ!」

 しごく尤もな事を言う隼人に、慎吾を始め寮生達のニヤニヤした視線が注がれる。いや、1年生を抜いてではあるが。

 「あんな!これは何も俺が始めた事や無い。代々の寮長に受け継がれて来た、大事な、行事や」

 慎吾の言葉に寮生達が頷く。

 「ほんで、な?今日・明日の2日間は寮の舎監はおらんのや!分かるか?この意味が〜」

 してやったり、と言うように慎吾の顔がニタリと人の悪い笑みに崩れる。

 ・・・・・・・・ということは。この馬鹿騒ぎは学園公認なのか。まったく、なんていう学校だ・・・・・。

 「で、でも!酒はまずいだろうが!具合が悪くなったらどうすんだよっ!」

 おや、隼人も中々頑張りますね。まぁ白雪に何かあったら困ると言う所か。

 「ほんなん、飲めない奴に飲めなんて言わへんがな。きちんと酒以外の飲みもんも用意してあるさかい。見てみぃ、ジュースでもお茶でもたんまりあるで〜」

 「でもっ!」

 「かー、肝っ玉の小ちゃい男やんなぁ?隼人。雪紀と直哉が1年の時なんて、ここにある酒あらかた飲み尽くして・・・まだ足らんと抜かしとったで〜?」

 慎吾!そんな事をしていたなんて!それに・・・隼人の前で直哉の名前を出しては・・・!

 「何?!兄ちゃんそんな事までしてたのか?くそっ、俺だって飲めるぞ!おい、白雪っ!酒持って来いっ!!!」
 「えっ?う、うんっ!」

 ほんの少し戸惑いを残しながらも、白雪が両手にビールの缶を抱えて隼人の下へと走り寄った。

 「おう、サンキュ。俺はこの、筋肉蝶々に馬鹿にされたくないから飲むけど、お前は飲むなよ?絶対だからなっ!?」

 そう一言、言い置いて。

 ごきゅっ、ごきゅっ、ごきゅっ・・・・・。隼人の喉が音を立てて上下する。

 「かーっ、良く冷えてんなぁ!おら、次持って来い!」
 
 あああ・・・・・だから、直哉と比べては。

 「なんや!ええ飲みっぷりやないの!ほなら、俺も負けてはいられんなぁ〜!飲んで何ぼや!男子の本懐じゃ〜!・・・天音、そこの酒とってぇな!」

 ・・・・・・・・・・・・はいはい。
 こうなってしまっては、どうにも止めようが無い。・・・尤もそんな無粋な事をする気にはならない。

 私は手近に転がっていたカクテルの缶を慎吾に持って行ってやる。

 「サンキューな、天音!あ、せやせや、忘れる所やったわ〜!おい!」

 慎吾がぱちん、と指を鳴らすと数人の寮生が何かを恭しく捧げ持って私の前に進み出た。

 ゴクリ・・・。私の喉も、鳴る。

 「天音、ビールとか苦手やんか〜。せやから、ぎんぎんに冷やした冷酒、ちゃんと用意しといたで〜?ほなら、まず一献っ、と」

 トクトクトク・・・。慎吾が手ずから私のグラスに冷酒を注いでくれる。

 そうなのだ・・・。私は「おばあさま」仕込で、この日本酒に目が、ないのだ。

 おばあさまも常々仰っている。「男子たるもの、御酒の一つも嗜めないでどうしますか」と。

 なみなみと注がれたそれを、私も一息であおる。

 「さすが天音や〜!ええ飲みっぷりや〜!」

 調子付いた慎吾がどんどんついで来る。悪くは・・・・・無い。

 ・・・・・・・・これで数時間もすれば、大量の酔っ払いの出来上がりだろう。