| 2004年 7月 29日(木) |
深夜の屋上
慎吾が言うところの・・・白鳳寮恒例の飲み会が開始され、1時間も経った頃だろうか。
かなりの数の人間が「酔っ払い」と化していた。
あっちこっちで「暑い〜」とか「も・・・飲めねぇ・・・」等など、酔っ払いのたわ言が聞こえてくる。
ふいに部屋の一角が何やら騒がしくなったので、私は手に持ったグラスを放さず・・・目だけを向けて、驚いた。
なんとそこでは酔っ払った寮生が「ストリップ」もどきを始めているではないか!
それも一人ではなく、数人が・・・自分の着ているものに手をかけている。
「し、慎吾!止めなくてもいいのですか?!」
私が慌てて慎吾に聞くと、さも当然の如く。
「ん〜、別にいつもの事やし。こんなもんや、男子寮の飲み会なんて〜。どっかから女の子引きずり込んだり、ヤバイ薬持ち込んだりしないだけうちの寮はマシや。せやから、たまにはこうやってガス抜きさせへんとな〜」
明らかに酔いが回っている様子の赤い顔でそんな事を言われても、説得力なんて無い。
けれども、慎吾の言う事にも一理はある気がする。だからこそ、期間限定でこれだけの大騒ぎを学園も認めているのだろう。
保護者にばれたら、マズイとは思うが。
慎吾に言われて大騒ぎをしている寮生を改めて見れば、楽しそうにしているのでまぁ、いいか。
という気分になってくる。
そう言えば、白雪は?と探せば・・・相変わらず、世話を焼いているらしい。
酔いが回って立てなくなった人間を何とか壁際に引きずって行こうと悪戦苦闘している。幸いな事に、白雪だけでなく数人の1年生が同じようにしているので、あれはあれで上手くやっているのだろう。
そして、私も自分の頬が少々熱を持っていることに気が付く。
酔っ払ってしまった、というよりも少々酔いが回った・・・程度ではあるが。
ふいに喉の渇きを覚え、近くに置いてあったクーラーボックスからミネラルウォーターのボトルを取り出すと、それを持って私は立ち上がった。
「慎吾、私は屋上に行って外の空気を吸って来ますからね」
一応そう声はかけたが、ぎゃはは!と大声で笑っている慎吾には聞こえていないだろう。でも、いいのだ。
「声をかけた」という事実が必要なのであって、慎吾に聞こえているかどうかは、関係ない。
「ああ、今夜は思った通り風がありますね」
階段の踊り場から屋上へと続くドアを開けると、冷やりとした夜風が私の髪を弄る。
隼人の一件でばっさりと切ってしまった髪も、少しは伸びて・・・どうやら触るに満足だ、と慎吾に思わせる長さにはなったらしい。
でも、鬱陶しいのですけれどね。
風に誘われるままに、屋上に出て・・・そこに先客が居た事に初めて気が付いた。
真っ暗ではないが余程近くに行かねば、そこに誰がいるのかは判別はできない。
目を凝らして見ていると、ぽっ、と赤い炎が瞬間辺りを照らした。
「・・・・・・隼人?」
そう、先客は隼人だった。そしてその炎は・・・煙草に火を付けようとしていたに決まってる。
「えっ?!なっ、何!?・・・あま・・・あま・・・・」
天音さん、と言いたいのだろう。しかし驚きすぎてその名前が出てこないようだ。ついでに手に持った煙草も落としてしまったらしい。
「まったく、こんな所まで直哉に似せなくたって・・・」
そう言いながらも落ちた煙草を拾って隼人に持たせてやる。
「・・・・・・・・すんません」
ぼそりと、感謝の言葉を呟いてから隼人は煙草を口に運んだ。
こうして近くで見ていると、恐ろしいくらいに直哉に似ている。こんな風に、何気なく煙草を咥えている所や・・・さっき思ったことだが、酒を飲んでいる時の一瞬の表情などが。
直哉に似ているのだ。
普段はガチャガチャ煩い、ただのお子様にしか見えない隼人なのに。
もう少し大人になって・・・いや、それこそ直哉のように本気の恋でもした日には。
このお子様な暴れん坊将軍は驚くほどいい男になるだろう・・・そんな予感がする。
「え、なに?何そんなに見てんの?天音さん」
しげしげと隼人の横顔を見ていた私の視線に気が付いたのか、途端に隼人が焦り出す。
・・・・・・・・構ってみたら、面白いかも。
ふっと私の中にそんな思いが芽生える。いや、きっと既に私も酔ってはいたのだろう。
「なっ、なにすっ!天音さん、止めろ、って・・・!」
私の白く長い指が、隼人の顎から耳の下をゆっくりと撫で上げる。
「隼人・・・・・・・・」
「ちょ、マジで冗談きついって!天音さん、酔ってるだろっ!」
隼人の手が、私の手の動きを戒める。・・・もう少し触っていたいのに。隼人の皮膚の感触は、慎吾のそれとよく似ていて非常に手触りがよかった。
「なんで、駄目なんです・・・?ほんの少し、触るだけじゃないですか・・・・」
上目使いに隼人を見れば、どうしていいのかわからない・・・と困惑しているのが分かる。
「隼人・・・」
「ちょっ、マジで勘弁してくれよ〜!シャレになんねぇだろうがっ、天音さんっ!」
とうとう痺れを切らせた隼人が、両手で私の腕を掴み上げてしまった。
「うぎゃぁ〜!あ・・・天音っ、何しとんのやっ!!!!!」
背後で・・・慎吾の悲鳴が上がった。
「そこにおるんは誰やっ!天音が俺のもんと知っといて・・・襲うなんざ、ええ度胸やないか〜」
地の底から、湧き上がってくるような慎吾の声。
どうやらドアの方からだと、隼人が私を襲っているように見えるらしい。
「やべぇ、マジで・・・やべぇ」
私の腕を掴んだまま、隼人が呟いた。
もしかして、この自体は私が招いたのだろうか?