| 2004年 7月 3日(土) |
素麺大戦争
今日と明日は、慎吾が泊りがけで勉強をしに来る事になった。
なので食事の用意もあると思い、朝起きてからまずおばあさまにそう告げた。すると非常に非常に困った様子。
「どうかされましたか?」
思案顔のおばあさまにそう聞くと「困ったわ・・・」と呟かれる。
「あのね、天音さん。今日はお昼前から大事な用事があって出かけなければならないの。お夕飯にはきちんと間に合うようには戻ってきますけれど・・・お昼のご用意を、どうしましょう」
本気で悩まれるおばあさまを見ていると、何だかこちらが笑ってしまう。
私も慎吾も十分に大きくなっているのに。お昼がなければ注文する事も出来るし、食べに行く事も出来るのに。
しかしおばあさまにはそんな事は考え付かなかったらしい。
「・・・・・お素麺でも、よろしいかしら?天音さん」
それなら、頂き物があるので茹でて行ってくれると言う。もちろん私は二つ返事で答えた。
「暑かったでしょう?外は」
真っ赤な顔をして汗をかいている慎吾に、私は冷茶のグラスを差し出す。
ごくごくと喉を鳴らして一息で飲む慎吾は、不思議と男らしくて格好良い。
「あ〜、生き返るわ。本当ならビールでも飲みたいとこやけど・・・。真昼間からそんなんなぁ〜」
へらり、と笑う。一応、我慢してるんだぞ!と言いたいらしい。
「慎吾。お昼はどうしました?食べて来たんですか?」
「いや、まだや」
そうですか、と時計を見ればお昼に少し早い程度だった。
「なら、今から用意して来ますね。少しここで待っていて下さい」
私はそう言い残すと、お台所へと向かった。
台所には茹でた素麺と、おかずが用意してあった。時間が無い、と仰っていたおばあさまなのに、私達の為におかずまで作って下さったらしい。
揚げたて、とは言えないけれどおばあさまが作っておいて下さった「かきあげ」は大振りのエビが入っていて本当に美味しそうだった。
冷蔵庫の中で冷やされていたツユも持って、私は部屋へと向かった。
「お帰り〜。天音、昼ごはんってなんや?」
「お素麺ですよ」
「やりぃ!」
いつも欠食児童の慎吾は素麺と聞いて、小躍りして喜ぶ。
「ほら、そんなに暴れてないで。こぼれてしまうじゃありませんか」
慎吾に注意しながら、ガラスのテーブルの上に私は昼食を広げた。
「お待たせしました。さぁ、頂きましょう?」
箸を持って、手を合わせていざ!素麺を・・・と、慎吾を見ると何だか急に機嫌が悪い。
「どうしました?慎吾・・・暑さで気分でも悪くなってしまいましたか?」
この筋肉お馬鹿の慎吾に限ってそんな事はない、と思いながらも聞いてみる。
「そんなんや、ない」
「なら、どうしました?お素麺好きでしょう?」
慎吾のツユの器の中に、私は素麺を入れてやる。
「嫌や、食べとおない」
慎吾がぷいっ、と横を向いてしまった。
「一体どうしたんですか?」
理由も言わずに機嫌を悪くする一方の慎吾に、私も少々苛立ち始めた。
「せやかて、こんなん素麺やない・・・・・」
「は?」
いいえ、これはどう見ても、誰が見ても素麺の筈。もしかして慎吾は素麺と冷麦を勘違いしている?
「素麺は真っ白やないと、あかんねん!!!」
慎吾が叫んだ。確かに・・・言われて見れば白い素麺の中に、所々ピンクの素麺が見え隠れしている。しかし、それが?
「別にいいじゃないですか。ほら、白い素麺がほとんどですよ?」
そう言って私は数本の素麺を箸で掴み揚げる。
「いいや、違うねん!真っ白い素麺やないとあかんねん!こんなんピンクいのが入っとる素麺は、邪道やねん!」
・・・・・たかだか・・・たかだかそれだけの理由で、素麺を食べないと言うのですか?この馬鹿は。
折角、おばあさまがお忙しい中心を込めて作ってくれたものにケチをつけるのですか?!
おばあさまの事です。子供みたいな慎吾が喜ぶと思って、わざわざ色の付いたお素麺を混ぜて湯掻いて下さったのでしょうに・・・。
「だったら!食べなければ良いでしょう?!私が一人で食べますから慎吾はお腹を空かせて、指でも咥えてらっしゃい!」
ぷちっ、と私の中の何かが切れた。
慎吾の前に置かれた素麺の器を取り上げ、慎吾の箸を鷲づかみにする。そして物凄い勢いで素麺を食べ始めた。
「うっ!」
急激に吸い込んだ私は、一瞬・・・素麺を喉に詰まらせてしまった。
「あ・・・・天音?」
「お黙り!馬鹿慎吾!!!」
そんなに急に、食べんでも・・・と呆然として慎吾が言ったが、返事を返す気にもならない。