2004年 7月 5日(月)

追い込み

 いよいよ明日から、期末考査が始まる。

 なので今日の授業は午前中でお終いだ。このまま真っ直ぐに家に帰ればいいのに、つい生徒会室に寄ってしまう。

 けれどこの癖?は、何も私だけではない。

 生徒会室に行って、ドアを開ければ・・・案の定、慎吾以外全員が集まっていた。

 尤も、雪紀と直哉は試験勉強のために居るのではなくて、純粋に生徒会の仕事の為に居るようだが。

 咲良と瑞樹は二人で頭をくっ付けて何やら参考書と戦っている。

 「感心ですね、二人とも」

 そう声をかけて、二人の頭越しに見てみれば数学の参考書と、ノートが広がっていた。

 「あ、天音さん」

 「慎吾先輩は?」

 二人が頭を上げて、聞いてきた。

 「慎吾?今日はまだここに顔を出していないのですか?」

 言いながらも、そうだろうな・・・と思ってしまった。明日から試験が始まるというのに、慎吾には緊張感のかけらも無い。いや、例えあったとしても・・・何とかしてそれから逃げようとするだろう。

 「きっと、プールに逃げ込んでいるのでしょう。後で、私が探しに行きますから、あんなお馬鹿の事は気にしない様に」

 私がそう言い切ると、おりこうさんの子犬たちは元気良く「はーい」と返事をする。

 「しかし・・・かなり難しい問題を解いているのですね」

 改めて見て見れば、咲良のノートには難解な数式がみっちりと書き込まれていた。

 「確かに難しいけど、雪紀さんと瑞樹が教えてくれたから大丈夫。どの公式使うかさえ覚えたら意外と簡単だったよ」

 苦手だった問題が解けるようになった事に、咲良は大変喜びを感じているらしい。胸をはってそう答える。

 瑞樹も自慢げに頷いている。

 そんな二人をみて、私のアンテナが反応した。

 やはり慎吾はこの二人に任せた方がいいのかも知れない。私と居ればどうしても、欲望の方が強くて慎吾は中々勉強に集中してくれない。
 けれど、この二人相手にいくらお馬鹿な慎吾でも、そんな気持ちになる筈はない。

 「ところで・・・今日は二人とも、これからどうするんです?」
 思い立ったら吉日だ。

 「う〜ん・・・雪紀さんは生徒会の仕事が忙しいみたいなので」
 「今日は咲良の寮に泊まりで、勉強会します♪」

 な〜、楽しみだよな♪
 子犬コンビは試験勉強も楽しめるらしい。しかし、それは願っても無い事で。

 「でしたら・・・私のお願いを聞いて頂けませんか?もし聞いて頂けるのでしたら・・・そうですね。咲良と瑞樹が大好きな『フルール』のフルーツタルトを、差し入れますよ?」

 「えっ?!」
 「本当ですか?!」
 
 二人の瞳が輝く。一瞬、雪紀の刺すような視線を感じたが、私はそれに気が付かない振りをする。

 「ええ、今日の勉強会に慎吾も参加させてくれませんか?もちろん、私が責任を持って探して連れて行きますから」

 そんな事くらいで、大好物のフルーツタルトが食べられるのなら・・・と、二人は大喜びで引き受けてくれた。

 これで、私も今日は安心して試験勉強に取り組める。慎吾もまさか後輩の前から逃げ出したりはしないだろう。

 あれでかなり・・・格好つけなので。