| 2004年 8月 17日(火) |
慎吾の決意
イライラと考えている内に気が付いたら外が明るくなり始めていた。どうやら私は夜通し考え込んでいたらしい。
いや、考えていたというよりも・・・嫉妬に苦しんでいたという方が正しいだろう。
決まった訳ではない、慎吾と皐月の事で・・・一人、悶々としているなんて我ながら馬鹿みたいだ。でも、どうしても私の中で慎吾の隣に私以外の人間が添うなんて許せない。
私は野乃香と将来、結婚しなければならないと言うのに。
醜い。私の心の中は醜くて、汚いドロドロとしたもので満ち溢れている。
ふいに携帯が鳴った。どうやら野乃香からのメールが来たようだ。
今すぐに、野乃香の部屋へ来て欲しい、とメールには書かれていた。全く動く気にはならなかったが、メールを見た以上行かない訳にはいかない。
私は手早く身支度を整えると野乃香の部屋へと向かった。
「野乃香、入りますよ?」
昔からの週間で、ノックをすると同時に声をかけてドアを開ける。本来、女性に対して行うには失礼な行動だが野乃香と私は兄妹のように育ったので、どうしてもその辺りを失念してしまう。
「慎吾!なんでここに・・・・・」
ドアを開けて私は驚いた。何故、野乃香の部屋に慎吾がいるのだろう。見れば野乃香は、いつもの熊に顎を埋めて泣きそうな顔をして私を見ていた。
「野乃香・・・・?」
まさか慎吾が野乃香を泣かせでもしたのだろうか。そう思って改めて見れば、確かに慎吾もバツの悪そうな顔をしている。
「・・・・・天音ちゃん、ごめんなさい・・・・・。野乃香、自分の事だけで、天音ちゃんの気持ちも、慎吾ちゃんの気持ちも何にも考えてなかったの・・・・・」
唐突に野乃香はそう言うと、大きなくりくりとした瞳から涙を零す。
「野乃香・・・・・」
「天音ちゃん!」
ひっく、ひっくとしゃくり上げる野乃香の背中を私は優しく撫でてやる。すると熊を取り落とした野乃香が私に抱きついてきた。
「ごめんな、野乃香ちゃん。泣かせるつもりはなかったんや」
私に抱きつく形になっている野乃香に、慎吾が謝る。
「でもな・・・さっきも言ったけど。俺は天音がこの世で一等好きやし、天音以外の人間と俺の人生を分け合う気持ちはさらさらないんや。天音と野乃香ちゃんの事は、俺の中ではもう片がついとる事やし。どうやっても、子供を成さなあかん家があることも理解しとる。けどな、それと俺が皐月ちゃんと付き合うのは違うやろ?」
そうか。野乃香は私がいい顔をしないのを見越して先に慎吾に皐月との事を言ったのだな。
「天音と野乃香ちゃんは小さい時から一緒におったから・・・将来、結婚せなあかん言われてもそないに違和感は感じないかも知れんけど。皐月ちゃんはそう思うかいな?俺と会った事もないのに、いきなり俺と将来を誓え言われて誓えるか?俺には無理や。どんなに皐月ちゃんがいい子でも、天音以上に大切にしたる事は出来ん。堪忍な・・・俺には天音しかおらんのや。ふりだけでも、天音以外の人間と居る事はでけんのや。
野乃香ちゃんと天音が結婚して・・・子供を持つ事は許せてもな、俺が誰かに子を成す事だけはあり得んのや。親不孝言われても、それだけは譲れん。俺は死ぬまで天音以外の人間には触れんと、ここに誓っとんのや」
とん、と慎吾は自分の心臓の辺りを軽く指で突く。
「わかるやろ?野乃香ちゃんかて、皐月ちゃんの事が大好きなんやもんなぁ。そのためだったら何でもしたいし、出来るんやろ?俺も同じや。天音のためやったらどんな事でも出来るし、したる。天音が世界獲れ言うから、俺は世界を獲るんや」
静かな声。
だけどその慎吾の声は、嫉妬でどうにもならなかった私の心の中に染み込んでくる。
野乃香を通して、まるで私に言い聞かせているようにも聞こえる。
泣きながら、ごめんなさいを繰り返す野乃香の背中を抱きながら、いつのまにか私も泣いていた。
誰よりも、こんなにも私を愛していてくれる慎吾と出会えた事が幸せだと・・・これ以上の幸福はないのだと。
私はこの幸せを噛み締める。