2004年 8月 18日(水)

海に行こう!

 「なぁ、天音。明日から出かけるし・・・今夜中に荷物作っておいてな〜」

 昨日の帰り際、唐突に慎吾にそう言われて私は驚いてしまった。何も聞いてない、と私が言えばさも当たり前のように『ほんなん当然や。言ってなかったし』と答えられては何も言えない。

 「あ、ほれから。おばあさまのお許しはきっちり頂いとるさかい、後で天音からもお礼言っといてな〜」

 ・・・・・既におばあさまの許可まで頂いていたとは。おばあさまの慎吾に甘いのにも程がある。

 「ほんなら明日な!天音の家まで迎えに行くさかい、荷物と一緒に待っとってぇな〜」

 言いたい事だけ言うと、慎吾は手を振り振り寮へと帰ってしまった。






 「どこに行くか分からないのに、荷物を作れといわれても・・・困りましたねぇ」

 一夜明けて、今朝。
 私は荷物の山を前にして途方に暮れていた。修学旅行の時の事からも分かるように、私は自分の荷物を作るのが得意ではない。あれもこれもと荷物を入れすぎてどうにもならないほどの大きさになってしまう。

 「・・・・・慎吾じゃない。誰でしょう?」

 携帯が鳴る。慎吾は特別に着信音を分けてあるので分かるが、一体誰だろう。
 ディスプレイのナンバーは咲良からのものだった。

 「もしもし」
 『天音さん!おはようございます〜!変わりなかったですか?』
 「ええ、そんなには。咲良も元気そうですね。あなたも変わりなく過ごしていましたか?」

 ふいに咲良の声に懐かしさを覚える。ほんの少し前までは毎日当然のように聞いていた声を、この所聞いていなかったのだと改めて感じる。
 そんな事を考える暇もないほど、私には余裕がなかったのだろう。

 『う〜、変わりないって言ったら嘘になると思いますけど。まぁそれは後からゆっくりお話することにして』

 おや、珍しい。咲良が言いたい事を言わないなんて。

 『それより、天音さん。荷物の整理は出来ましたか?』
 「・・・・・・・・荷物?何で???」

 私の頭の中では慎吾との旅行と咲良が言う荷物と言う言葉が結びつかない。

 『えー!慎吾さんにもしかして、何にも聞いてないとか?!駄目駄目じゃん、慎吾さん・・・・・』
 
 ・・・いや、聞いてはいる。何処へ行くかは知らないが。

 『今日からね、皆で一緒に海に行くんですよ!海に!!!だから早く支度しちゃって下さいね〜。何を忘れても良いですけど、水着とタオルは持ってくださいね!あと・・・天音さんは日焼け止め忘れないで下さいよ!』

 それじゃ、あとから雪紀さんと一緒に迎えに行きますね〜!と残して咲良からの電話は切れた。

 私の家に迎えにくるって・・・慎吾が来るのではなく、結局佐伯氏が運転して迎えに来るんじゃありませんか。
 昨日の自信満々な慎吾の笑顔を思い出して私は一人、笑ってしまう。まるで自分が迎えに来る様な素振りで・・・・・。


 

 そうか・・・海に行く事になっていたのか。皆で。
 きっと慎吾が、皆を誘ってくれたに違いない。

 私はいそいそと散らばった荷物を纏め始めた。海に行くのならそれなりの支度をしなくては。
 この私の真珠の様な肌を焼くのは困りますからね。

 それにしても・・・日帰りなのか泊まりなのか。どこの海へ行くのやら。
 よくよく考えれば、私は何も知らないのだ。

 それに・・・・・。
 お盆を過ぎた今頃になって・・・海にはクラゲが居るのではないでしょうか・・・・・。

 クラゲまみれの海。行きたくは、ない・・・・・。