2004年 8月 26日(木)

嵐の到来?

 今朝は昨日までと打って変わって、どんよりとした灰色の雲が空一面を覆っていた。
 心なしか、海の水の色まで濁っているように見える。

 「なぁなぁ、今日も海に行って泳ごうな!こんだけ雲っとんのや、天音も白雪も平気やろ?」

 ばあさまが準備してくれた朝ごはんを、大きな口に放り込みながら慎吾が言った。
 これだから、筋肉お馬鹿は・・・。
 
 「あの〜、先輩・・・。差し出がましいようですが・・・」
 「ん?何や?」
 がつがつとご飯を食べている慎吾に、白雪が恐る恐ると言った様子で声をかけた。

 「いくら曇っていても、紫外線の量は変わらないと思うんですが・・・」
 「ふ〜ん、で?」
 「ですから。雲っていても日焼けはするんです、理論的に。だから、国見先輩は泳ぐのは無理だと・・・・・」

 声は小さいけれど、白雪はしっかりと主張した。
 隼人を相手にするのとはまた、違った態度だが・・・それでも私のために?お馬鹿な慎吾に進言してくれる姿はやはり、可愛らしい。

 「へーすっごい〜。白雪くん、物知りなんだねぇ!」
 「うん、俺も雲っていたら日焼けなんてしないと思ってた!」

 子犬コンビが目を輝かせて喜ぶ。白雪も先輩(とてもそうは見えないが)二人に誉められて、悪い気はしないらしい。白い頬をうっすらとバラ色に染めて、照れている。
 その姿は本当に「白雪姫」の様で、目の保養になる。




 「それがなんや」
 皆が、なごんでいた所を慎吾のその一声が壊した。
 「雲っていて、日焼けするのがなんやの。天音、海に来て本気で泳がんと帰る気ぃかいな!」
 「だって・・・そんなの最初から分かりきっていた事じゃないですか。私が日焼けなんてしてどうするんです?!」
 「ほんなの、ええやないか。日焼けした踊りの先生も、お茶やお花の先生も探したらおるかも知れんやん!」
 「そんな師範たちなんてお目にかかった覚えはありませんね。・・・大体、産まれてこの方まともに日焼けした事がない私が急に日焼けなんてしたら・・・死んでしまいますよ」

 いや、死んでしまうは大げさかもしれないが。私は死んでも日焼けなんてしたくないのだ。

 「だーっ、つまらん!もうええ!俺だけで泳いでくるし!」

 冷たい私の態度に怒ったのか、慎吾はそう叫ぶとどすどすと部屋を出て行った。そして乱暴に玄関のドアを開けて閉める音がする。
 その後で、ばあさまの怒鳴り声と慎吾が何か喚いている声がが聞こえたから・・・怒られたのだろう。

 全く、仕方のないお馬鹿だ・・・と思って、私に向けられる視線に気が付く。
 咲良や瑞樹、白雪までもが何ともいえない表情で私を見ていた。平気な顔をしているのは雪紀くらいのものか。

 「さて・・・お騒がせしました。で、今日は何をしましょうか?」
 私は努めて冷静さを装う。すると咲良が「はーい」と言って手を上げた。
 「俺、水族館に行ってみたいっ!」
 「・・・・・水族館?」
 「そうです!ほら、ここにに載っている、これっ!」

 咲良は名にやら鞄をがさごそと探り・・・何とガイドブックを取り出すと、あるページを捲って見せた。
 そこには「鳥羽水族館」とある。

 「あ、俺もここ行きたい!ねっ、白雪君も行きたいよね!」 
 私と一緒に本を覗き込んでいた瑞樹も元気そうな声をあげる。白雪は、と見れば・・・瑞樹の言葉に真剣な顔をして頷いている。

 「これはどうやら、決まりだな・・・・・」
 ガイドブックを見ながら楽しそうなお子様3人に、雪紀がため息混じりにつぶやいた。
 「決まりは、いいのですが。どうやって行くんですか?」
 私は至極尤もな質問をする。すると雪紀は携帯を取り出し、何やら喋り始める。傍から聞いていても、雪紀が一方的に喋っているだけで、相手の都合はお構いなしと言うのが良く分かる電話だった。
 
 「30分後に、ここに迎えが来るからな。それまでに支度をしておけよ」
 電話を切るや、雪紀はお子様3人に向かってそう言い放つ。
 
 「・・・・・もしかして、佐伯氏ですか?」
 分かりきっていても、聞かずにはおれない。そう言えば、ここに送ってくれた後、彼は何処でどうしていたのだろうか。30分で来れるのであれば東京に戻っている訳がない。
 そう思った私に雪紀は「当たり前だろ。他に誰が迎えに来るんだ」と踏ん反り返って答えた。
 その偉そうな態度に、私は一度・・・どうやって雪紀を育てたのか佐伯氏に聞いてみたいと思った。

 


 窓から海を見れば、かなり波が高くなっていた。風もかなり強い。
 こんな海で慎吾は本当に泳いでいるのだろうか。たまに慎吾を馬鹿だと思う日があるが、今日はやっぱり馬鹿だったと・・・私は認識を新たにする。
 そして、咲良たちの支度も整い・・・迎えに来た佐伯氏の運転で私達は「鳥羽水族館」へと向かった。

 この時、天気予報を聞いていなかったことを後に後悔するとは夢にも思わずに。