2004年 8月 27日(金)

水族館へGO!

 佐伯氏の運転で、私達は水族館へと辿りついた。
 何だか、益々曇ってきたお天気が気にならない訳ではなかったが・・・水族館を目の前にした子犬たちの喜びように、私はすっかり慎吾の事など忘れてしまっていた。

 「うわ!思ったより、大きいね〜。ほら、瑞樹、白雪くん早く!!」
 「あっ、おいっ!咲良!走るんじゃないっ!うおっ!」

 車が止まり、ドアを開けたと同時に咲良を先頭に、子犬達が走り去っていく。
 雪紀が声を張り上げたが、そんなものがあの、テンションの上がった子犬たちに通用するとでも思っているのだろうか・・・この男は。
 ちなみに、最後の「うおっ!」という声は・・・雪紀が躓いて、転びそうになって上げた声だと、書き記しておこう。

 「ああ、若・・・落ち着いて下さいよ。こんな所で怪我をしたら、思いっきり笑って差し上げます」
 「〜〜〜〜〜っ、煩い!お前の用事は終わったんだから、さっさと何処かへいっていいぞ!」
 雪紀のやつ。
 散々、佐伯氏を足にしておいてその言い草はないだろう。あ、でも顔が真っ赤になっているので、からかわれた事が気に入らないだけなのか。
 「そんなにお気遣い頂かなくても、結構ですよ。私も水族館なんて久しぶりです。・・・・・お供しましょう。また、若が転ばないとも限りませんから」
 てっきり、佐伯氏は何処かへ行ってしまうと思っていたのだが、予想に反して私達と同行するらしかった。
 しかし、流石は雪紀の守役と言うのか、育ての親と言うべきか。
 涼しい顔で、なかなか辛らつな事を言うのだな。




 「もーっ!遅いですよぅ、何してたんですか〜」
 私達が、咲良たちに遅れること数分。水族館の入り口にあるチケット売り場に辿り着くと、瑞樹が頬を膨らませていた。
 おや?咲良と、白雪の姿がないのはどうしてだろう。
 「おい、瑞樹。咲良はどうした?」
 雪紀が、聞くと瑞樹は益々頬を膨らませた。
 「皆が遅いからって、その辺りのお店見てくるって行っちゃいましたよ〜。もう、俺だけ置いてきぼりにして・・・・・」
 どうやら、瑞樹は留守番に置いていかれたらしい。
 しかし、店と言われても・・・・。私は辺りを見回すと、成る程。
 歩道沿いに、小さな土産屋のようなものが、ずらりと並んでいる。何やら「真珠」と書かれた店が多いが・・・そうか。伊勢は真珠の産地だからか。

 
 「こら、咲良!早く戻ってこい!」
 探しに行ってきます、と瑞樹が走り出そうと身を翻した瞬間、一軒の店の中から咲良が出てきた。それを目ざとく見つけた雪紀がそう言うと、咲良は非常に嬉しそうな顔をして走ってきた。
 後ろに・・・・・白雪を従えて。


 ようやく全員が揃い、チケットを買い・・・私達は無事に水族館の中へと入った。
 中は色々なブースに仕切られていた。流石は夏休み、子供連れやカップルがかなり多いが・・・お盆休みを過ぎたためか、私達が揃って歩くのに困るほど混雑してはいなかった。


 「うわっ、凄い!」
 「なに、これっ!」
 
 又もや子犬コンビが何かを見つけたらしい。
 嬉しそうな顔で、白雪を手招きしている。・・・私や雪紀には用はないと言う事だろうか。隣を見れば、雪紀も憮然とした顔をしているし、佐伯氏は笑いを堪えるのに必死の様子だ。

 「うわぁ〜・・・何だか、不思議ですね・・・でも、綺麗」
 「だろっ!凄いよな!!」
 「ねぇねぇ、咲良!白雪!こっちにも、ちょっと違うのがいるよ!」

 子犬コンビ+一匹は、きらきらと瞳を輝かせて水槽から水槽へと移動している。
 一体、何にそんなに興奮していたのかと思って、私もその水槽に近寄って見る。

 ああ・・・これは、綺麗。
 水槽の中には、海草に似たひらひらをつけた「リーフィーシードラゴン」なる生き物がゆったりと、泳いでいた。
 シードラゴン、というからには「タツノオトシゴ」と同じような生き物だろうに。
 これは確かに、感動するかも知れませんね。

 その後もはしゃぐお子様達を、保護者宜しく私と雪紀は追い掛け回して館内中を歩いた。
 お子様達は「光るクラゲ」がいたと言っては、大喜びし・・・「クリオネ」がいたと言ってはトリビアの泉だ!と言って騒ぎ。
 果ては、珍しくもなんとも無いペンギンにまでも興奮する始末。
 あ、でも・・・「マナティ」を見たときは私も嬉しかったが。


 散々歩き回り、お子様たちもさすがに疲れたのか・・・ようやく、休憩タイムと相成った。
 やっと腰を降ろせてほっとした私を尻目に、雪紀は一人、どこかへ行こうとする。
 「雪紀・・・何処へ?」
 「・・・・頼む、煙草くらい吸わせてくれ・・・・・」
 疲れ果てた様子の雪紀はそう言いながら、屋外の喫煙ブースへとふらふら歩いていった。
 私も冷たい飲み物で喉を潤そうとし、気が付いた。・・・お子様達が、いない。
 しまった、と思った時は遅かった。
 背後から、キャーキャー嬉しそうな声が響いてくる。見たくはないが、そうは行かない。私は心を決めると背後を振り返る。

 「ゲッ!俺、また3等だ〜」
 「えー、俺なんて、4等だよ・・・まだ、咲良の方が大きいじゃん」
 「あ・・・・・俺、1等・・・・・」
 「嘘っ!白雪すげぇ〜!」
 「悔しい〜!どうして一回で1等なの!?いいもん、これは柚ちゃんに上げるのにして、俺もう一回やる!」

 あなた方は・・・・・本当に、高校生なんですか?
 ああ・・・一回500円もするクジを、一体何回すれば気が済むのか・・・・・。
 そんなに、ぬいぐるみばかり増やしてどうするんですか・・・・・。
 佐伯氏・・・援助交際してる、オヤジじゃないんです。そんなに幸せそうな顔をして、500円玉を握らせては、駄目です・・・。
 しかし、疲れ切った私に・・・小犬たちの暴走を止める術はなかった。
 ここに、慎吾がいなくて本当に良かった・・・・・。

 


 「・・・・・・・・おい、天音・・・このイルカだか、ジュゴンだか・・・マナティなんだか・・・人形の山は、何なんだ」
 煙草を吸い終えて、帰ってきた雪紀が絶句した事は言うまでもない。


 「あー面白かった!」
 「俺も、楽しかったです・・・」
 「俺もっ!雪紀さん、雪紀さんも面白かった?ねっ?」 
 「あ・・・あぁ、もちろん・・・面白かったさ・・・・・」
 帰りの車内に、魂の抜け落ちた様な雪紀の声。

 水族館を後にして、未だ興奮覚めやらないお子様達に私と雪紀は答える力も残ってはいなかった。


 ふと、目を窓の外にやる。
 海が・・・荒れていた。朝よりもずっと波は高く、激しい。
 空も益々、どんよりとしているし・・・風は生暖かい。
 もしかして、これは台風が近づいているのでは・・・・・。