| 2004年 8月 3日(火) |
慎吾の怖い話
「あるところに男が一人おったんや。そいつの恋人はえらい別品やった。」
「寮長! それ、ご自分の事じゃないんですか?」
寮生の一人がすかさず茶々を入れる。慎吾は人差し指を立ててちっちっちっと横に振った。
「ちゃんとあるところにゆうてるやろ。あくまでこれは匿名の話や。」
どうだか。私ははらはらしながら慎吾を見守った。この筋肉は時々とても露悪的になるのだ。
「賢うて、優しゅうて、でも気が強おて、刺激的な恋人や。男はその恋人が自慢で自慢でたまらんかった。なぜならその恋人はな、別品で気立てが良いだけでない。…あっちの方がな、そらもうものスゴ、積極的やったんや。」
慎吾は少し声を潜めると、片手を口の脇に置いた。
…内緒話のつもりだろうか…。
…こんな場で、そんな仕草、まったく無意味だ。
「大抵な、二人のデートは恋人の方の家でするねん。いい家の子ォなんやな。男の汚い下宿なんか似合はらせん。ましてやアオカンなんて…ほんのごく時たまならとにかく、も、畏れ多いいうか、もったいないいう感じなんや。
だいたいな、その恋人の家は純和風やねん。男は現代っ子やし、畳なんかよう知らん。
畳に延べられた布団や、寝乱れて畳に直に広がる恋人の綺麗な髪なんかがもう、その男を捕らえて放さへんねん。」
私はぎょっとした。純和風の家に、畳の上に直に広がる髪と言ったら…それはやっぱり私の事ではないのか?
「しっ、慎吾、それは…!」
言いかけた私は振り向いた慎吾の顔を見て絶句した。両目が…いやらしく三日月型になっている。
「なんやの、天音。さっきから言ってるやろ。これは匿名の話やで。俺らにはなーんにもかんけいあらへんわ。」
こっ、こいつ…! 匿名というフカシで、どんな話をぶちまける気なんだ!
大体なんで、私のアッチの方がそんなに積極的なんだ!
「邪魔が入ったわ。ほんなら続きな。」
慎吾は私の存在を軽く無視すると、おほんと咳払いをした。全員が心得たように身を乗り出す。
「その日もその男は、その綺麗な恋人と仲良うデートしとってん。いや、ぶっちゃけ、アレやな。まだ日は高かったけど、恋人の家族がみんな出払っているのを良い事に、もうしっぽりおんなじ布団に入っとってん。
もうとっくに布団は肌蹴られて、男は綺麗な恋人の着てるもんを剥ぐのに夢中になってん。
また、そんときはな、その恋人は綺麗な浴衣を着てたんや。浴衣ゆうんはな、あんな無防備なもんはないで。帯解かへんでも、どっからでも手が入るねん。この、脇のとこな、切れ込みが入っとって。」
慎吾は自分の腕を上げて脇の下を指した。
「こっから手ェ入れたら、すぐ乳首やねん。恋人が嫌や言うても信じたらあかん。だってもう肌は吸い付くみたいに汗ばんどるし、第一嫌や言うとるもんが、首根っこにしがみついてくるかいな。
その日その男はちぃとばかり鬼畜な気分やったんやな。恋人はなんやら拗ねとったが、無理矢理押さえつけて、帯を抜きよったん。シュッ、ゆうて布の擦れる音が、そりゃあもう扇情的やったで。」
こいつは…っ! まだ生々しい思い出を刺激されて、私はどうしても頬が赤らむのを抑えられない。見渡すと全員が食い入るように慎吾を見つめている中、隼人一人が茹蛸みたいに真っ赤になって俯いている。彼には昨夜のアレを聞かれてしまったからな…。
私が戸惑っている間にも慎吾の馬鹿話は続く。どうやら佳境に入ってきたらしい。
「…したらな、手はこうや。優しくあてがって、そっと中指を折るのや。人差し指ちゃうで。優しく促すように刺激するんは、中指の繊細な動きでな、あかん。
優しゅう撫ぜてやればな、自然に足が開いてくるねん。真っ白い太股がな、堪えきれんように震えながら開いて、腰が浮くねん。水音が聞こえてくるようになったらもう準備オッケーや。すべすべのみっしりした足をな、こう抱えて、ぐっと突き入れてやんねん。その瞬間がこらまた堪らんのや。準備に十分時間かけたかて、やっぱり俺のバズーカが無理矢理押し入るんや。苦しいんやろうな。腕の中の細っそい体がひくひく〜ぅて震えて、滑らかな首が反るねん。綺麗な顔の眉間に、苦しそうに皺が寄ってな、ああ、かわいそうな事をしとるて思うねんけど、薄く開いた口からピンクの舌がひらひら〜と動くんが見えて、もう、ども堪らん。止まれへんのや。」
慎吾は鼻の穴を膨らませた。…そういう顔で思い出すな! いつのまにかある男が俺になってるし!
「ちょい角度を変えてやるとな、おもろいくらいに体が跳ねる。甘ぁい声が漏れて、熱っつく火照った足が俺の腰を放さへんようにぎゅーっと締め付けてきよんねん。したらもう期待に応えな男や無い! こう、両足を抱え直してな、真上から串刺しや。もちろん乱暴なだけやあかん。首筋とか、胸とか、あんじょう撫でて気持ちようさせてやらな。キッスも忘れたらあかんで。首筋の柔い肉なんか、すぐ跡が付きよんねん。所有印やゆうて、いっぱい跡つけて、その上をじっくり嘗めんねん。それだけでどんどん肌ァ熱うなってくるのが分かるで。
もちろんせっせとご奉仕もせなあかん。すでに精力ゆうより、体力と持久力の問題やな。ズンズン突いて、ぐるんぐるんグラインド入れまくって、中出ししたんがジュブジュブ言いながら泡たてて溢れ出してきても、下に敷いた体が泣きィ入っても、背中がバリバリになるくらい爪立てられても、それが男の甲斐性や。途中で止めたらあかん。そうして、繋ごうたまま体入れ替えて、ひっくり返して大きく開かして持ち上げて、抜かずの3発や。どや!」
慎吾は話疲れてゼイゼイと息を付いた。途中から実演付きで腰をぐりぐり振っていたから、疲れてあたりまえだ。下品な…。
………こんな馬鹿話、止めたいのは山々だが、とりあえず匿名という事になっている話に私が割り込んで止めさせるのは…、悔しいがその恋人が私だと自ら認めてしまうようなものじゃないか!
それに、私が思わず止めるのをためらったのは、慎吾がこんなことを言うからだ。
「もう、腕の中で震えながら俺に必死で縋りついてくるんが、可愛いて愛しゅうてどもならん。
俺が世界一幸せもんやと実感する一瞬や。」
俺々連呼するな! こんな場面で愛の告白なんて…恥ずかしいじゃないか!
ここに集まったほとんどが、その男と恋人の正体について正しく理解しているだろう。
…この筋肉お馬鹿は!
「…り、寮長、それは唯の…羨ましい話です。どこも怖くありません。」
一人が手を挙げた。喉がからからだと言わんばかりに、声が引きつっている。
隼人がそうっと首を伸ばして私の方を見て、慌ててまた首を引っ込めた…。
「おう、本題はこれからやねん。これからが怖いんや。」
慎吾は背中を伸ばして汗を拭った。
こんな寒い部屋で、汗をかくほど妙な話をするな!
「男はもう、文字どおり、性も根も尽き果てた。ほんと、ヘロヘロやで。足腰はガクガクするし、喉はからからやし、もう出すもん全部出し尽くした。これ以上いくら擦っても泡しか出ぇへんねん。
すっかりおとなしゅうなったジュニアを恋人から抜いてな、さあ腕枕で朝までゆっくり思うてな、恋人を抱きしめたんや。ところが、恋人がおとなしゅう抱かれてくれへんねん。手ぇ伸ばして、なんやごそごそしよんねん。何してるか思うたら、一所懸命ジュニアを撫でて、終いには咥えんのや。全部口に入りきれんで、えらいエロイ眺めやで。そんで、俺の顔見て言うねん。」
慎吾は息を大きく吸った。
「もう1回〜。」
……そんなこと、私は…、言わなかったとは言わないが、そんな風に物欲しげには断じて言ってないぞ!
しかし、寮生の諸君には私の独白など当然通じなかったようだ。
「うわっ、こえー!!!」
「すげー! 男殺し!!!」
やんやの大喝采である。これだから男だけの寮は…!
沸き立つみんなの中に私と、なぜか隼人だけが赤面して、俯いている事となった。
そっと慎吾の方を伺い見ると、これ以上はないと言うような得意満面。私をダシにしてこんなふざけたことをするとは…!
慎吾…! 覚えておきなさいよ!