2004年 8月 31日(火)

最後の日

 今日は8月31日。
 正真正銘、高校生最後の夏休みだ。
 思い起こしてみれば、なんとまぁ・・・忙しく、騒がしい日々を過ごした事だろう。

 

 私達は昨夜、慎吾のばあさまのいる伊勢から戻って来た。
 寮生である慎吾・咲良・白雪を先に送り届ける事になり、まずは白鳳寮へと車は向かった。
 咲良辺りは雪紀が「拉致」するかと思っていたのだが・・・それは、咲良本人の希望により却下されたらしい。
 おかげで・・・夏休みの最後を「咲良と二人で」過ごす計画を練っていた雪紀はかなり不満そうだった。
 咲良に何故?と、理由を問えば、情けないとしか言いようがない答えが返ってくる。

 『えー、だって。慎吾さんが夏休みの宿題が終わってないから手伝えって言うんだもん』
 ねっ、だから白雪くんと俺とで手伝うんだよね〜。
 そう言ってにっこり笑った咲良は大変に可愛らしく・・・その横で小さく頷いている白雪も、可愛らしい。
 
 「慎吾!あなた・・・宿題って、まだ終わっていなかったのですか?!」
 てっきり何も言ってこないので、今年は流石に終わっていると思っていた私が甘かった。
 「えー、せやかて仕方ないやん。何や、夏休み言うても妙に慌しかったし・・・天音も、ばたばたしとって手伝わせるんも悪いと思ぅたし〜」
 頭を掻き掻き答える慎吾は・・・それを後輩に手伝わせる事を、恥ずかしいとは思っていないらしい。
 「ま、安心したってぇな。な、咲良!白雪!あんなん、インターネットでちょちょいの、チョイ!やもんなぁ〜」
 大変に嬉しそうにそう言う慎吾に、咲良と白雪が大きく首を縦に振る。
 インターネットで、ちょちょいのチョイ?
 それは一体、どんな内容なのだろう。

 そんなこんなで騒がしい慎吾達を、寮の前で降ろす。
 
 「あ、天音!こればぁちゃんからの土産や!家に帰ったらおばあさまに渡してな〜」
 そう言って慎吾から手渡された発泡の保冷箱は、何やらずしりと重たい。
 「一昨日、騒がせた罰や!って、ばあちゃんに怒られて。朝も早ぅから・・・漁協のおっちゃん達にこき使われて、頑張ったんや〜」
 そう言えば・・・朝方、早くに慎吾が何処かに行った気がしていたが。
 まさか漁協の手伝いだったとは。
 「採れたてやし、まだ生きとると思うわ。おばあさまに食べて貰ってな。ほな、咲良、白雪行くで〜」
 そう言うと、白鳳寮の寮長様は手下を引き連れて戻って行った。

 次いで、瑞樹を送る。
 瑞樹は瑞樹で、何やら嬉しそうだ。
 「明日はね、夏休み最後だからってカノンが誘ってくれたんです!」 
 頬をバラ色?に染めて・・・幸せそうだ。
 カノンにあげるお土産もちゃんと買ったし、忘れないで明日持っていかなくちゃ!と、意気込む瑞樹はきちんと宿題は終わっているらしい。

 


 そして・・・最後に残ったのが、私と雪紀だった。
 運転する佐伯氏を除いて、二人だけになった車内は・・・不思議な程、静かだった。
 そういえば、直哉はどうしたのだろうか。祥太郎先生も、隼人も。一体何をしているのだろうか。
 「雪紀・・・直哉は、どうしたのでしょう」
 浮かんだ疑問を、雪紀に投げかけると・・・珍しく、雪紀は少し考え込んだ。
 「雪紀?」
 「・・・まぁ、もうすぐ二学期だ。学校が始まれば嫌でも会うし、話も聞ける」
 「でも・・・・・」
 全く期待外れな答えに、私の顔が曇る。
 「そんな顔するなって。・・・天音にも、俺にも色々あった夏休みだっただろぅ?直哉にだって、色々あるさ」
 
 雪紀の言う事は、正しい。
 「俺達も、いつまでも・・・ガキじゃないって、事だ」
 そう呟いて煙草を咥えた雪紀の横顔は、確かに子供の顔ではなかった。




 「ただ今戻りました」
 そう言って、玄関に立った私をおばあさまと母が揃って出迎えてくれた。
 「あら、まぁ!お帰りなさい。天音さん、楽しかった?」
 「お荷物、頂きましょうね」
 口々に言いながら、私の手から荷物を取り家の奥へと向かおうとする。
 「あ、私の荷物ですから私が運びます。洗濯物は、脱衣所で宜しかったですか?」
 そう言ってさっさと荷物を運ぶ私を、二人が何やら眩しそうに見ている。
 「どうしたのです?二人とも」
 「いえ・・・ほんの数日の内に、変わるものだと」
 「・・・ええ、おかあさま。男の子って、急に大人になってしまいわすわね」
 向けられる視線の意味が理解できず、首をかしげた私に・・・二人は笑顔で答えた。



 明日から、二学期が始まる。