| 2004年 9月 10日(金) |
見た。
昨日は新役員選挙のために、ポスター撮影が行われた。
今は随分と便利になったものだ。何たって、パソコンとデジカメとスキャナのお陰で、すぐに出来上がりが確認できるのだ。
昨日の時点で、一応の確認はしてはおいたが・・・何枚か、レイアウトを変えて作ると・・・写真部の連中は言っていた。
そして、今日。流石にわが校の生徒は仕事が早い。
「あくまでも、見本」といいながらも、何枚かのポスターが「献上品」として生徒会室に届けられた。
「こんなに早くに、ご苦労様でしたね」
持って来た写真部の一人に、私は微笑んだ。
面白い事に、見る間に耳まで真っ赤になっていく様は・・・茹蛸のようで、大変愉快だ。
「いっ、いえっ!あのっ!!そのっ!」
真っ赤になってどもるから、ますます面白い。そういえば、最近慎吾が面白い事をあまりしてくれないので・・・私は刺激に飢えているのかも知れないな。
「そんなに固くなる必要はありませんよ。では早速見せて頂きます。・・・ふぅん、やっぱり我が校の誇る写真部ですね。仕事が早くて、見栄えもいいですよ」
この目の前に突然現れた生贄を?思い切り、からかってやろうと決めた私は山ほどの誉め言葉と、極上の笑顔の大盤振る舞いだ。
「はっ・・・あ、あり、あり・・・ありがとうございますっ!天音様にっ、お褒め頂けるなんて・・・こっこっ・・・・・」
・・・・・ニワトリか?こいつは。
きっと「光栄の至り」とか言いたいのだろうが、感激しすぎて言葉が出ないらしい。
おや、今度は泣き出した。
「おっ、オレッ!在学中に、あまっ、天音様と喋れるなんて、思ってもいなかったんでっ!」
鼻水と涙でぐしょぐしょの顔でそう言われても、嬉しくはない。
写真部は懸命に、涙と鼻水を拭っている。しかも・・・制服の袖口で。これが、咲良や瑞樹や・・・白雪なら、その可愛さで様にもなるだろうが、お世辞にも可愛いといえないこいつがやっても気持ちが悪いだけだな。
黙って見ている私の前で、顔中を擦り終えると・・・写真部は意を決したかのように私を見た。
「天音様!ご一緒に、写真を撮らせて下さい!」
がばり、と床に手を付き・・・大声で叫ぶ写真部に、私の顔が引きつる。
「いえ・・・その、私は特定の生徒とは・・・」
「いいじゃないか、丁寧な仕事をしてくれたんだろう?それに写真部はおまえの管轄だろう。働いた部下に褒美をやるのは上に立つ者の常識じゃないのか?」
「雪紀!」
そういうことはしない、と言おうと思ったのに・・・ふいに現れた、雪紀に邪魔をされた。
結局、かちんこちんに固まった写真部と並んで・・・写真を撮られてしまった。
「雪紀!余計な事を!」
感激に背中を震わせながら戻って行く写真部を見ながら、隣に立った雪紀を睨みつけるが・・・奴は、どこ吹く風、と言った様子。
「いいじゃないか、減るものじゃあるまいし」
まるで、口笛でも吹き出しそうな位機嫌のいい雪紀に、昨日の事を思い出す。
こいつ・・・昨日の、あの写真を咲良に見せようとした事を根に持っていたのだな!
今度こそ絶対に見せてあげます!と心に決めて、私は写真を探したが・・・ない。
雪紀が昨日の内に処分してしまったらしい。
しかしここで諦めては私の気持ちが治まらない。そうだ・・・確か、佐伯氏にこっそりとポスターを横流ししたのは私だ。
一枚は確実に残っている事を思い出し、気分が良くなる。
「え?もう出来てきたんですか?」
「見たい!見せて下さいよぅ〜」
少し遅れて生徒会室にやってきた子犬達が、私が手にしていた選挙用のポスターを見て喜んでいる。
「あ、隼人のだ!」
「本当だ〜、なんかどっかの政治家のポスターみたいだね〜。笑顔で悪い人って感じ?」
「言えてる!こんなやつ、あっちこっちに張ってあるもんな〜」
そう言いながら大笑いしてる小犬達の背後に、大きな影が忍び寄った。
「煩い!笑うな!!お前達なんて、幼稚園の入園式の記念写真みたいじゃないか!」
耳元で大きな声を出されて、咲良と瑞樹は思わず耳を塞ぐ。
その隙に、隼人は自分のポスターを咲良たちの手元から奪い取る。
「おまえら、いつまでも子供みたいな事やってんじゃねぇよ!おら、とっとと仕事しろ!」
隼人に怒られた子犬コンビは、逃げる勢いでそれぞれの仕事にとりかかる。
隼人は、監督宜しくその姿に頷いていたが・・・私は、見ていたのだ。
隼人が自分のポスターを取り上げた時に、こっそりと白雪のポスターも手にしていた事を。
そして。
騒ぎに乗じて雪紀が、咲良のポスターをちょろまかした所も。
一体、何に使うつもりなのだろう。