| 2004年 9月 19日(日) |
穏やかな・・・・・・
もう9月も中旬なのに、今日の気温も30℃を越えていた。
それでも夕方になると微かに涼しい風が吹いてきて、「秋」を感じさせられる。
何も無い穏やかな休日を過ごし、家族と共に夕食を摂った後、私は庭に面した縁側に座り、夜空を眺めていた。
夕涼みと言うには少し暑いだろうか・・・・・・
流れる雲と月の光、そして綺麗な虫の音を聞いていると、日頃忙しくしている神経が休まるようだ。
私ももう半年もすれば卒業。
先日新生徒会の役員も決まった。
私たち三年の役目ももう終わると思うと、少し寂しさが湧き上がる。
「色々な事がある生徒会でしたね・・・・・」
誰に言うでもなくポツリと呟く。
脳裏に今までの出来事が次々と思い出され、私は感傷的な気分になった。
「良い思い出ですね・・・・」
僅かに浮かんだ涙を拭っていると、庭の垣根がガサガサと音を立て、私は身構える。
「誰ですか?」
変質者・・・泥棒・・・私の頭に次々と物騒なものが浮かぶ。
私が逃げようと立ち上がりかけた瞬間、黒い影が立ち上がった。
「ひっ・・・・!?」
「どうしたん?天音・・・・変な声上げて・・・・」
「し・・・慎吾・・・・」
垣根を越えて顔を出したのは泥棒でも変質者でもなく、慎吾だった。
「何でそんなところから入って来たんですか?」
驚かされた私は、ムカついたので冷たい声音で慎吾に言う。
「何怒ってんの?俺玄関から行こう思っててんけど、縁側に座る天音見つけたから・・・・つい・・・・」
私に怒られてしょぼーんと耳と尻尾をたらした犬のような慎吾の姿が可愛くて、私の怒りなどすぐにかき消されてしまう。
「二度としないでくださいね・・・・それよりこんな時間にどうしたんですか?」
「あ・・・せや、あんな、コンビにで花火が安く売っててん。せやから天音とやりたいって思って・・・」
そう言った慎吾の手には大きな袋に入った花火が二つもあった。
「ああ、夏ももう終わりですからね・・・・」
「ほら、早くやろうぜ」
子供のように目をキラキラさせながら慎吾が袋を開けて花火を選び始めた。
「待ってください、水とバケツとろうそくを用意しますから」
「早くしてなー」
立ち上がり奥へと向かう私の背後から慎吾の急かす声が聞こえて、私は思わず笑みを零す。
本当に、慎吾といると感傷にも浸れないようだ。
でも・・・・そんな慎吾の明るさが私の心を癒してくれるのだ。
こんな些細な出来事でも、私は改めて慎吾への想いを認識するのだ。
「あら・・・天音さん、どうしましたの?バケツなんて持って・・・」
「おばあさま・・・・今慎吾が来てまして、花火をしようかと」
水を入れたバケツを用意していると、おばあさまが顔を覗かせて不思議そうに呟いた。
花火の事を話すと、おばあさまは目を輝かせてろうそくを持ってきてくれた。
「はい、ろうそく。もちろんわたくしもまぜてくれますのよね?」
こんなに楽しそうにしているおばあさまを無下に扱えるわけが無く、私はおばあさまと慎吾の待つ庭へと向かった。
「おおっおばあちゃんどれがええ?」
「そえねぇ・・・・あまり激しくないものがいいかしら」
「それなら、これやな」
おばあさまと慎吾は仲良く花火を選び私を振り返った。
「なんですか?」
「天音さん・・・早くろうそくに火を点けてくださいな」
「天音、早く早く」
・・・どうやら私がろうそくに火をつけなければならないらしい。
まるで大きな子供が2人・・・・・私は軽くため息を吐くと、二人の為にろうそくに火をつける。
「まあ、綺麗ねぇ・・・・」
「俺のはワイルドな感じやな」
慎吾は両手に花火を持ち、振り回しながらはしゃいでいる。
「慎吾・・・危ないから振り回さない!」
私が注意をしても慎吾は「大丈夫」と言って聞き入れない。
でも、おばあさまはそんな慎吾を見て、大喜びな様子で、私はもう何も言わない事にした。
「あら、皆楽しそうね・・・・」
騒ぎ声が聞こえたのか、母までやってきた。
「あ、おばちゃんこんばんわ、一緒にどうです?」
慎吾は母を見つけると、花火を持って手招いた。
「お言葉に甘えようかしら」
母まで巻き込んで、いつもなら静かな私の家の庭が、今日は虫の音もかき消すほどの騒がしさに包まれた。
慎吾とおばあさま、母の楽しそうな姿を見て、私は嬉しさ半分、嫉妬半分の複雑な気分にさいなまれる。
慎吾と私の関係を知っていて、認めてくれているのはいいが・・・・慎吾は私と花火をしに来たんじゃないのか?
少しだけ、母とおばあさまにジェラシーを感じる私だった・・・・・・・・・