2004年 9月 24日(金)

頭痛の種が。

 昨日の競技会では、慎吾が素晴らしい成績を残してくれた。
 慎吾の種目はバタフライなのだが、昨日はそれの200Mと400M、それに団体で行うメドレーリレーの400Mに出場した。
 どの予選も危なげなく勝ち抜いた慎吾は、それぞれの決勝で素晴らしい記録を生み出した。
 200M、400M共に高校新を出したのだ。
 当の本人は「当たり前」の様な顔をしていたが、そんなものでは済まないのが世の中だ。

 学園側としては、慎吾の活躍はありがたい事この上ないだろう。
 もちろん即日「大学部への特待」での進学が確定した。元々、その話はあったのだが・・・普段の練習を少々嫌がる慎吾に、学園側もどうしていいものか、と悩んでいたらしい。
 しかし、一日で高校新を二つ、とくれば文句は無い。
 他の大学が慎吾の獲得に乗り出す前に、契約を結んでおかねばならないのだ。
 まぁ、これは私に取っても慎吾にとっても嬉しい事なので・・・さほど、問題ではない。


 問題は、他にあった。
 私達の丁度、後ろに陣取っていた女子高校生の軍団を覚えているだろうか?

 慎吾は泳ぎ終わった後で必ず、私の方を見上げる。これは幼い頃からの習慣なので、今更どうする事もできない。
 それに私はあの時の慎吾の『見とったか?やったで!』といった自慢げな顔が大好きなのだ。
 なのにそれを・・・事もあろうか、後ろの女子高生は自分に向かっての笑顔だと勘違いしてくれたらしい。
 はしたなくも大きな声で騒ぐ彼女達を、隼人が胡乱な目で見た。だが、相手は女の子だ。
 いかに隼人の血の気が多くても、そうそう事を荒立てる訳にはいかない。
 だが・・・・我慢にも限度と言うものがあるのだ。

 慎吾が泳ぐたび、黄色い声が私の頭上を飛び越えていく。
 最後の方など・・・思い出すのも嘆かわしい程、はしたない言葉を発していたのだぞ?あの女達は!
 本当に悔しかった。出来るのならば「慎吾は私のものです!」と大きな声で言い返してやりたかった。しかし、場所が場所だけに・・・それに、これから益々活躍の場を広げていくだろう慎吾に、私のその宣言は足を引っ張るだけだろう。
 唇を噛み締めながら、私は我慢に我慢を重ねたのだ。
 それでも夜になって、慎吾の太い腕が私を抱きしめてくれた時・・・そんな悔しさは消えてなくなった筈だった。

 

 「おい、天音・・・あれ、どうするんだ?」
 生徒会室の窓から、校門を見やり・・・雪紀がうんざりした声を上げる。
 もちろんその横では直哉が、これまた眉間に皺を刻み込んでいる。
 そうなのだ。
 校門のところには・・・・・昨日、私達の後ろに座っていた、あの女達がたむろしていたのだ。
 間違いなく、慎吾の下校を狙っての行動だ。
 まだ、内部まで入り込んでこないだけマシなのか?いや、でもきっと遠からず、当たり前の様な顔で学園何に入り込んでくる筈だ。あれは、きつとそういう人種だ!
 そうでなければあんなに短いスカートを穿いていながら、平気な顔でコンクリートの上にしゃがみ込めるものだろうか。
 白鳳は、男子校なのだぞ?!その、年頃の男の前で、あんなにはしたない格好を! 
 私は握り拳を振るわせた。

 

 「あ〜、とりあえず・・・裏から、出したから」
 がらりと音を立てて、隼人がやってきた。
 正門からは出るのは不可能だと言うことで、慎吾を裏門から寮へと帰したのだ。多少遠回りになってしまうが仕方がない。
 「んで、白雪と・・・・・その、新会長も一緒に戻したからな。一人よりはいいだろ?」
 そう言いいながら私達が下を見下ろしている窓の所へとやって来た。
 「ったくよ、何であんなに頭わりぃんだか。お前らなんて、相手にもされないってわっかんねーのかよ」
 ばーか、ばーか・・・・・。聞こえないのを良い事に、言いたい放題だ。

 「なら、お前が相手にしてやったらどうだ?今なら入れ食い状態だぞ?」
 面白がった直哉が、暴言を吐く。
 「けっ、兄貴・・・冗談はやめてくれよな。俺がああいう、頭の悪い女は嫌いなの知ってるだろ〜?」
 「そうか?」
 「だいたいさ、ああいう女共は・・・雪紀さんとか、兄貴の方があしらうの、上手いじゃん」

 流石は隼人。直哉の本性を良く知っている。

 「なっ!隼人っ!お前、ここでそんな事を言うもんじゃないっ!」
 ごん、と音がして直哉の拳骨が隼人の頭にヒットした。
 

 兄弟喧嘩は、どこか余所でやって欲しいものだ。
 それよりも・・・明日以降もやってくるであろうあの女達をどうにかしなければ。私と慎吾の平和な生活は戻って来ない。