| 2004年 9月 25日(土) |
そんな大きいの…!
午前中はゆっくりと朝寝を楽しんで、午後から出かけることにした。
慎吾が新記録を二つも打ち立てたご褒美をあげることにしたのだ。
好きな物をリクエストしていいと言ったら、慎吾は迷わず「ホテルでお泊り!」と言った。
まあ…それくらいならいいだろう。なんだか最近、さすがにおばあ様やら母の目やらが気になっていたことだし。
私は早速ホテルを予約した。
私の都内のお気に入りのホテルは、新宿を少し外れたところにある、シティホテルだ。
ビルはそれなりに高層ビルだが、ホテルはその最上階の数フロアだけで、こじんまりしたホテルだ。
部屋数も少なく、お値段もそれなりによろしい。
しかし、スタッフも一流ぞろいで、アットホームかつ丁重なおもてなしをしてくれるところなのだ。
待ち合わせたカフェに、いつもよりもっと上機嫌な顔で慎吾が現れた。
とりあえず食事だと言う。まだ朝からなにも食べてないし、どうしても行ってみたい所があるのだそうだ。
「ここや、ここ! ものごっつでっかいネタの寿司が食えるんやで!」
慎吾の指定したのは、ネタが大きいことで有名な、回転寿司屋だった。
そもそも私は、回転寿司は初体験である。
慎吾に引っ張られるまま、狭いカウンターに座ると、目の前のレーンを寿司が流れていく。
一つ一つにプラスチックの蓋が被せられていて…ふむ、乾燥を防いでいるのか。
到底寿司屋には似合わないような、サラダやデザートが流れているのがおもしろいな。
それにしても…噂にたがわぬ大きなネタだ…。
慎吾が嬉々として取り上げたのは、枕のような中とろ。続いて、穴子。
穴子は…丸々一匹乗っている…! 信じられない…。
「うん? 天音、なんでもいいの取り? 注文も出来るで。」
「そ、そうですか…。」
私にはそんな、枕みたいな中とろなんて食べられない。穴子もそんなサイズだったら一つしか食べられないかもしれない。
「じゃあ、私には、平目を…。」
まずは白身の魚がセオリーだろう。
平目は、回るレーンには乗っていなかったらしい。私はなんとなくほっとした。
やっぱりいくらカバーがかけられているからと言っても、人の周りをぐるぐる回ってきた物は、なんだか気味が悪い。
それに、平目はそんなに大きくもなかった。更に助かった。
「ああ〜、ダメやん、天音〜。そんな高級魚頼むから、普通の寿司やん〜。」
「普通でけっこう。そんな枕は私の口には合いません。」
さすがにお店の人の目が気になって小声になってしまったが、私はそう言って慎吾のお尻をつねってやった。
それからも私は小さ目のネタを狙い、いかにもコンビニふうのデザートをいくつかとってお腹を満たした。
だが慎吾は相変わらずの大物狙い。その大物ばかりの皿を20枚も積み上げるのだから呆れてしまう。
すっかり満足した慎吾は、膨れた腹を抱え、他の客からもやんやの喝采を浴びながら店を出た。
「ふう、まったく…。」
あんなに食べたのに、寿司ばかりで喉が乾いたからお茶を飲もうと言う。
「こんなところを見せたら、あの女子高生たちも、少しは引くんでしょうにねえ…。」
「んん? 女子高生ってなんやの?」
私は少し迷ったが、昨日校門まで押しかけてきた女子高生たちのことを説明してやった。
好奇心旺盛な慎吾のことだ、こんなことを話したら、おもしろがってわざわざ自分から首を突っ込むに違いない。
だが、多分慎吾の泳ぐ姿だけを見て憧れている彼女らは、慎吾の素顔を知ったら引いていくと思うのだ。
それが狙いだ。
思った通り、慎吾はなにか企んでいる顔をしている。
うきうきとして、私の顔を見て、慌ててそのだれた顔を引き締める。
………何を考えているかバレバレだって。
さて、しばらく繁華街を歩いて、私たちはホテルへたどり着いた。
ここはおばあ様もお好きで良く利用されるので、私が行くとなるともう、スタッフが総出でお出迎えしてくれる。
ところが、慎吾はなにか不満げだ。
「あかーん! こんなご立派なとこちゃうねん! 俺が行きたいのはもっとリーズナブルでファンキーで…!」
「なんですか、予定があったんですか? ホテルと言うから私は…。」
「や、や、ここがやや言うわけやないんやで! だけど俺が思い描いてたんはもっとこう…。」
なんだかその後に、もっとエッチで下品で…と聞こえたような気がする…。
………そんなホテルを希望していたのか…。
「ま…、天音が奢ってくれるんやから、文句は言わんとこ。ここも夜景がよさそげやし、ムードあるよってな。
俺が行きたいとこは…俺がそのうち奢ったるわ。そん時は必ず付いてきてぇな。約束やで。」
なんだか、調子よくとんでもない約束を取りつけられてしまったような気もする…。
とりあえず今日は、星の近いこのホテルの一室でムーディーな夜を過ごそうと思う。