| 2004年 9月 26日(日) |
ホテルナイト
夕べは色々と忙しかった。
あんなに文句を言っていたくせに、いざ部屋に通されてしまうと、慎吾はご機嫌だった。
広い部屋をぐるぐる回って歓声を上げている。
「なあ! 天音見てみ! 風呂場にまでテレビがあるで!」
「はいはい。」
「うお! ホームバーも格段の充実ぶりやで! 未成年でも夢心地やん!」
「ああ、慎吾、残念ですけど、お酒はダメですよ。」
堅苦しいことを言うつもりはないが、私は国見の家の長男として知れ渡っている。
こんなつまらないところでぼろを出す気はない。
「ええー! それじゃもちろん、夜のバーやクラブも…?」
「残念ですけど、ここにいる間はダメですね。」
「なんやの〜! それも楽しみの一つだったのに…。」
しょぼんとした慎吾は、次の瞬間瞳を輝かせた。なにやら企んでいるのが、一目瞭然だ。
「それやったら、夜は食事以外は部屋に閉じこもりっぱなしやな。」
「ええ、まあ…そう言うことになりますか。」
「夜は長いで。退屈するかもしれへんな。」
「いえ…、今のうちにDVDでも借りてきておきましょう。慎吾の大好きなアメコミでもいいですよ。」
なんとなく嫌な予感がして、私はそう言ってみたが、すでに慎吾の耳に入っている気配はない。
慎吾はなにやら嬉しそうにぐふぐふと笑っている。
案の定だった。
夜は夜景のきれいなアメリカンレストランでディナーを取った。
ここは本当は私はあまり好きではない。
アメリカンというだけあって、供される料理は量ばかり多くて品数が少なく、その上大味だ。
しかし、このホテルに泊まったら、ぜひともここを利用しなければならない。
売り物の夜景は、それはそれは見事なのだ。
そうして満腹になって部屋に戻った。
慎吾はすっかり借りてきた蜘蛛男のDVDに夢中になっているものと思って、先にバスを使わせてもらった。
そこを急襲された。
鼻息を荒くして入ってきた慎吾が真っ先にした事は、バスキューブやらなにやら…浴槽に入れる石鹸類を全て私が使っているバスにぶちまくことだった。
唖然としている私を尻目に、とっとと何もかも脱ぎ捨てた慎吾は、そのままバスに入ってきた。
いくら外人仕様の大きなバスタブとはいっても、ツインの部屋のものだ。そう大きくはない。
いきなりの体積増加に、お湯が大量にあふれ出た。
「慎吾…っ、狭いから…って、こ、こらっ!」
入るなり、いたずらな指が私の体をさわさわと撫でる。背中にべたりと張り付かれて、私はバスタブから脱出することも出来やしない。
「なんや、せっかくアワアワ入れたったのに、全然泡出ぇへんな。どないなってん?」
「こんなの、今から入れたって、泡立つわけないでしょう。これはお湯を落とす下に置いておいて、お湯の落ちる勢いで…、ちょっと…!」
「そうか。水の勢いで泡出すんやな。それじゃ…。」
慎吾がにやりと笑った。
もしかしてこいつ、何もかも承知でやっているんじゃないのか?
「泡出るくらい、水の中で暴れな、だめなんやな。」
「ちょっと、慎吾、こんなところで…、あぁん…っ。」
前に回された手が、慎吾の密着ですでに半立ちになっている私のジュニアを握りこむ。
そうされてしまえば、私がもう慎吾の腕から逃れられっこないことなど、慎吾にはとうにお見通しなのだ。
私はバスタブのふちを両手で掴まされた。獣のような四つんばいの姿勢は、普段なら大変だけれども、浮力がついている今は比較的楽だ。
「なあ、天音。うなじが濡れて光って、凄く色っぽいで。」
ふうっと背後から弱い耳たぶに息がかけられる。
もうその後は流されるままだ。
散々風呂場で睦みあった後も、バスタオルに包んでテイクアウトされてしまい、今度はベッドで再戦だった。
おかげで…足腰が痛い…。
私は今、時計を見ながら放心している。
今は午後2時。チェックアウトをとっくに過ぎた時間だ。
お得意様の私だから、フロントはなにも言ってこないが…、きっとじりじりしながら連絡を待っていることだろう。いっそもう一泊するか…。
しかし、またここで慎吾と泊まれば、明日また同じことを繰り返すのが目に見えている。
それに、この部屋の惨状だ。
風呂場から水浸しになっているし、ツインのベッドのうち、一つはめちゃくちゃで、もう一つはまったく使った形跡がない。
これでは…私たちが夕べ何をしたか、一目瞭然ではないか。
やっぱり、お気に入りのホテルなんかには、慎吾を連れてくるべきではなかったのだ。
こんなことならいっそ、慎吾を酔い潰して、普通の一夜を過ごしたほうがどれだけマシだったか知れない。
私はため息をつきつつ、隣に寝ている白抜きした日焼けの背中を撫でた。