2004年 9月 3日(金)

祥太郎先生の恥じらい

そう言えば、私には気になることが残されていた。
夏休みの間、すっかり行方をくらませていた、直哉と祥太郎先生と、ついでに隼人の航跡だ。

とりあえず驚かされたのは、あのブラコンの隼人が、直哉への「兄ちゃん」呼ばわりをすっぱり止めて突然「兄貴」と呼び出したこと。
そしてなんだか祥太郎先生を巡って、直哉とにらみ合いをしているように…見えること。
なにかあったことは違えようもない。だが、その中身が大変気になるではないか!
ここは一つ直哉当たりをとっちめてやろうと探していると、出会い頭に早速ぶち当たった。
いやに焦った様子の直哉だ。

「直哉! なにを慌てているんです!」
「ああ…、天音か。そろそろ祥先生を迎えに行こうと思って。生徒会室にみんな集まる頃だろう?」
迎えに…なにをにやけたことを…。
いくら我が校が広大だと言っても、同じ建物の中で迷うわけがないじゃないですか。

「それはそうと…夏休みはどこに雲隠れしていたんです? なにか変わったことでもあったんですか?」
「一遍に聞くなよ。まあ…変わったことはなくもないな。」
なんだろう、この直哉に似合わないにやけた顔は…。
こんな顔をするからには、よほどいいことがあったに違いない。

「それに…、隼人はどうしたんです。いきなり宗旨変えですか? 兄貴だなんて…、そっちの方がしっくりはきますが。」
「まあ、あいつも大人になったってことだろ。思うことがあったんじゃないか。」
「でも、いきなり…。」
言いかけた私を無視して、直哉が手を上げた。数メートル先の廊下には、ぽやんとした顔をした祥太郎先生が歩いている。

「祥先生! お迎えに上がりました!」

なんと言う恥ずかしいことを平気で叫ぶかな、この男は…。
しかし私は次の瞬間、我と我が目を疑った。
なんと、祥太郎先生が、たちまち頬を染めて、横を向いてしまったのだ。

まるで恋する乙女のような可憐な仕草は、祥太郎先生にはよく似合う。
私はびっくりした。脇でなんだか満足そうにふんぞり返っている直哉を置き去りにして、慌てて祥太郎先生のもとに駆けつける。

「祥太郎先生!」
「あ、国見くん…。直哉君たら、恥ずかしいよね…。」
呼ばれて恥ずかしいのだろうか?
一体この二人の間にどこまでの進展が!

祥太郎先生は私の手首を掴んで引っ張る。
大して強い力ではないが、私は先生に引かれるままに階段室に連れていかれた。
「直哉君…大胆なんだから…。」
祥太郎先生はますます頬を染めている。そしてそろりと直哉のほうに顔を覗かせて、ちょっとがっかりした顔をした。

「なーんだ、ただのシャツか…。」
「ん?」
「まっぴるまっから大放出かと思っちゃった。いくら直哉君でも、それはないか。」
いくら直哉でも…? それは一体…?

私は祥太郎先生に言われるままにそうっと顔を覗かせた。
直哉は先生を見失ったのだろうか。いやに焦った様子できょろきょろしている。
先生のいうことはすぐ分かった。

直哉の、ズボンのチャックが開いているらしく、そこからシャツの切れ端がひらひらと覗いているのだ。

「ね〜。一瞬丸出しかと我が目を疑うでしょ〜?」
いや…、直哉のならもっと黒…むぐむぐ。

「思わず恥ずかしくて隠れちゃったけど、これはやっぱり教えてあげた方がいいのかな〜。」
それはそうでしょう。
そう言えば、直哉が焦って出てきたのは…洗面所だったか…そうだったか…。

祥太郎先生はまるっきり無邪気な顔で、教えてくると叫んで飛んでいってしまった。
私の知りたいことは、結局何一つ分からないままだ。
またうまく祥太郎先生にはぐらかされてしまったのかも知れない…。