| 2004年 9月 9日(木) |
ポスター制作
少し遅れて生徒会室に行くと、何やら緊張した雰囲気が漂っていた。
見かけない連中が、白雪君を取り囲んでいるのだ。
一体何事…と思ったが、連中の手にしているものを見てすぐ合点が行く。
大きなレフ板にご大層なカメラ。写真部の連中だ。
どうやら間近に控えた生徒会役員選挙のための、ポスター用の写真を撮っているらしい。
「あっ、天音さん、もう俺の試し刷りはできました。見てください!」
咲良が嬉しそうに駆け寄ってくる。
カメラと言ってもデジカメだから、あっという間に転送して、ポスターの草稿くらいできるのだろう。
しゃっちょこばって立つ咲良の写真の下に、名前と、生徒会公認の印が大きく入っている。
「これが今回のポスターですか?ずいぶんちゃんとしてますねえ。」
たしか、雪紀が一年生で名乗りをあげたときにもポスターをつくった。
それも生徒会公認だったはずだが、この咲良の写真と比べるとずいぶん砕けた感じだった。
「出来レースにこんな堅苦しいポスターの必要はないじゃないですか。
雪紀のときみたいに、もっと自分をアピールしてもいいんですよ。」
「アピール…? 雪紀さん、どんな感じだったんです?」
咲良が瞳を輝かせて聞いてくる。
この後輩は、敬愛する雪紀のすることならなんでも素晴らしくて有り難いのだ。
「ちょっとお待ちなさい、たしかまだその辺に…。」
記憶違いでなければ、代々の写真がまだ残っているはずだ。
私はちょっと意地悪な気分になりながら、棚を探す。
雪紀のポスターは、たしか先代の生徒会長に唆されて、バラの花を咥えていたはずだったな。
「天音、そんな余計な物は探さなくていいから。」
少しばつが悪そうに、雪紀が私の手を遮る。
背後では白雪君が頬を染めて、写真部の連中にお礼を言っている。
パソコンのプリンターからは、その前に撮ったのだろう、瑞樹のポスターも出来あがってきている。
「いたんですか、雪紀。あなたのことだから、うんと脚色して可愛らしい咲良の写真でもポスターにするのかと思いましたよ。」
「いや、咲良は別に脚色しなくても十二分に可愛らしいから、その必要はない。」
……まったくどいつもこいつも。
「まあ、本当ならそういうのを作ってもよかったんだが、今回の選挙は珍しく、対抗馬が出てるんだ。それも二組も。」
「対抗馬? 珍しいですね!」
私は思わず声を上げてしまった。
我が白鳳の生徒会役員選挙には、代々暗黙の了解がある。前任の生徒会役員が後任を指名して、それを一応選挙と言う形式を通して本選とするのだ。
対抗馬が出たのは、私の知っている限り、初めてのことだ。
「それで…、対抗馬というのは、いったい…。」
「一組は、『祥太郎先生を男にする集い』だそうだ。」
「男に…って。」
「ねー! 失礼だよねー!」
どこから聞いていたのか、祥太郎先生がひょこんと顔を出した。
「僕は正真正銘男だっての! なんなら見せてあげたっていいんだから! 別に人にさせてもらわなくても十分に…。」
「お願いですから止めてください!」
直哉が泣きつかんばかりに先生にお願いしている。
………祥太郎先生のことだ、ほっとくと実際やりかねんからな。
直哉の奴もご苦労なことだ…。
「それで…、もう一組は…。」
「その…。」
「『住園会長の横暴を許さない同志連合』だってさ。」
遠くから、隼人が面白そうに叫ぶ。写真を撮っていた連中が、文句を言って正面を向かせている。
「…なんですかその会は…。」
「ま、早い話が、咲良のファンクラブだろ。」
面倒臭そうに直哉が言う。
「咲良のファンクラブなら、応援するのが筋じゃありませんか!」
「その辺が、痛し痒しってところだろう。奴らは、咲良のことを可愛いお人形さんかなんかと勘違いしていて、囲い込んで大切に祭り上げておきたいんだよ。
会長ともなれば、自分たちが独占するわけにも行かないし、事実上接触も困難になるからな。それは嫌なんだろう。」
「俺そんな、可愛らしいばっかりじゃないのに!」
咲良がぷうっと頬を膨らませる。
「いずれにしろ、俺には関係ない。俺は俺の責任はちゃんと全うしたからな。後は雪紀が自分の火の粉をいかにうまく払うかだな。」
「へー、直哉君って冷たいんだね〜。」
なんだか偉そうに言っていた直哉だが、祥太郎先生の一言で、たちまちあたふたとなる。
やれやれ、やっぱりあの調子では我々が奔走して、なんとか選挙も無事終えさせないといけないようだな。
そうこうしているうちに、咲良、瑞樹、白雪、隼人の4人のポスターが出来上がった。
来週1週間の選挙活動の後、選挙が執り行われる。
選挙後、真っ先にやってくる生徒会役員の大仕事は、11月の文化祭だ。
我々の楽しい祭りを確保するためにも、ぜひ4人には頑張ってもらわないといけない。