| 2005年 1月 1日(土) |
元旦
国見家の元旦は、おばあさまの拍手から始まる。
さすがの私も、今日ばかりは寝坊できない。大きな神棚の前でお灯明を上げ、新年を迎えた感謝を神の前で唱える。
それからぞろぞろと今度は仏間へ…。毎年の事ながら、ちょっとこっけいな大移動ではある。
しかし、父の代になり、次に私の代になっても、きっと変らずこの風習は続けられるのだろう。
日も高くなり始めたころには次々と来客が現れる。
気楽なお弟子さんたちの挨拶から、父がお世話になっている大層な肩書きの方まで、多種多様を極めるので、気が抜けない。
ところで、今年はいやにお年賀が立派な物が多いと思ったら、その謎がお弟子さんたちの一団で分かった。
どうやら、私の婚約話が流れているらしいのだ。
「あけましておめでとうございます! あの、天音先生、ご結婚なさるってほんとうですか?」
中学2年の女の子だ。私の授業を狙って来ている一人だ。
着慣れない和服を無理に着たのだろう。いかにも窮屈そうに正座をして、私のほうを潤んだ瞳で見つめてくる。
私は困っておばあさまの方を見た。おばあさまはそしらぬ顔だ。どうやら噂を流した犯人は、おばあさま辺りだ。
「いえ、まだ結婚ではありませんが、その約束を今度することになっているんです。」
「それって…結納ってヤツですか?」
「ええ…まあそうですね。」
「それじゃ、やっぱり決定なんですね!」
あどけない彼女の丸い頬が見る見る高潮して、せっかくの晴れ着に似合わない大粒の涙が転がり落ちる。
見ると…彼女の後ろに座っている、彼女の仲間と思しき一団が、同じようにすすり泣いてしまっている。
「私…天音先生がお幸せになるんならいいんですけど…でもやっぱり悔しい! お相手は…やっぱり野乃香ちゃんなんですか?」
ここで否定しても、すぐに真相はばれるに決まっている。私は仕方なく頷いた。
すると彼女はますます切なく身をよじった。
「野乃香ちゃんじゃ私なんて太刀打ちできません。本当にお似合いだし…。
天音先生、ご結婚なさっても、私たちのことも忘れないでお幸せなご家庭を作ってください…!」
やれやれ。
そんなお祝いを涙ながらに言われてもな…。
なんとか彼女たちは宥めすかして帰ってもらったが、滅入ることに、その後似たような客が3組もあった。
いや、私の人気からすれば当然ではあるのだが。
こんな騒ぎが、5日の結納当日まで続くのかと思うと、本当にうんざりする。