2005年 1月 10日(月)

ご祝儀

前日の結納は全てつつがなく、滞りなく終った。
私はまだ、今一つ吹っ切れない気分が残ってはいるのだが、なによりもおばあさまと母とがとても嬉しそうな顔をしておられて、水をさせない気分だ。

この連休が終ると、3学期も始まる。
クリーニングから帰ってきた制服に風を通していると、おばあさまが呼びにいらした。

「天音さん、慎吾さんとお友達ですよ。」

誰かと思ったら、雪紀と直哉だった。
3人とも、なんだか青ざめたしかめっ面だ。

「どうしたんです、3人とも。明日から学校で、いやというほど会えるじゃ有りませんか。」
「おまえ昨日、結納だったんだろう。」

雪紀が拳でこめかみをぐりぐりしながら言う。
私は思わず袖で鼻を抑えた。

「うっ、お酒臭い! なんですか3人とも!」
「キンキンした声だすな! 二日酔いなんだから!」

雪紀はいやそうに顔を顰めて、コートのポケットを探った。
私の胸元につきつけられたのは、ちょっとよれた祝儀袋だ。

「佐伯におまえの話をしたら、お祝儀を持っていけってめちゃくちゃ怒られてさ。
しょうがないから義理だ、義理。ちなみに3人前だから。」

表に書かれた流麗な文字は、きっと佐伯氏の手によるものだろう。
私は裏書を見て息を飲んだ。学生が出すとは思えない値段が書かれてある。
義理だ、などと言ってはいるが、恐らく雪紀も直哉も、前もって用意してくれていたに違いない。
そして、例えそれが3分の一だとしても、それは慎吾には恐らく出せないであろう金額だ。
そこに慎吾を混ぜてくれるのも、二人なりの気遣いなのだろう。
これがからかい半分の祝儀だとしても、二人の心遣いが嬉しくて、私は深く頭を下げていた。

「ありがとうございます。遠慮なく頂きます。」
「いいって、そんな丁寧な礼。」
雪紀は直哉を振りかえるとにっと笑った。

「そのうちまとめて返してもらうさ。」
「ええ、あなたが可愛いお嫁さんをもらったときにでもね。」

雪紀だって住園家を背負っている以上、いつか私と同じ道を選ぶのだろう。
結託が結ばれた気がして、少し面映かった。


「ところで…昨日は3人で飲み会だったんですか?」
「ああ、雪紀と直哉が招待してくれてな!」
「へえ。なにか楽しいことありましたか?」
「それがな…気がついたら3人で裸で正座させられてて、なーんも覚えてへんねん。」
「は? 3人で裸で正座?」

一体なにをやらかしてきたのやら。

「ものすごおもろいことがあった気ぃはしたんや。 これは絶対天音に教えてやらなあかん!いうような。
えーとえーと、そや、たしか、直哉は爪楊枝!」
「………なんですかそれは。」
「さあ?」

慎吾はにっこり笑って首を傾げる。
雪紀と直哉が後ろで百面相をしていて…どうやら記憶がぶっ飛んでいるのは慎吾だけらしい。

どうせロクでもない話をしているのに違いない。二人の顔から見るに、私の噂も多分に混じっているようだ。
いつかとっちめて聞きただしてやらないといけないようだ。