2005年 1月 19日(水)

支援者

「あの、お話の方がキリが付いたのでしたら・・・お茶を点てさせて頂いても、宜しいでしょうか?」

私は上機嫌で笑っているじいさまにそう声をかけた。
本当に珍しい事もあるものだ。
頑固で偏屈、そう簡単に人を懐へは入れないこのじいさまが、こんな大きな声を上げて笑うなんて。
野乃香もそう思ったのか、大きな目を更に大きく見開いて、さっきからぱちくりさせている。

「お、おお。点てて貰ってかまわぬぞ?」

未だ収まらない笑いに顔を引き攣らせながら、じいさまが言った。
その隣で慎吾も全く訳がわかりません、と言った様子で首を傾げている。

点ててもいい、と言われたのだからお茶を点てねばまずいだろう。
私はいつもよりも粉を少なめに茶碗へ入れて、丁寧にお茶を点て始めた。
子供の頃から慣れ親しんだ動作と言うものは心がどんなに騒いでいても、体は不思議と覚えた動作を難なく行うものなのだ。
そろそろいい頃合かと、私は出来上がったお薄をまずはじいさまへと回した。
じいさまは無言でそれを受け取ると、これもまた慣れた仕草で飲み干した。
野乃香も当然の顔をして、渡されたお茶を飲んでいる。
さて、問題は慎吾だ。
私は今まで一度も慎吾に、お茶の飲み方を教えてはいなかったのだ。
そして思った通り。

見よう見まねで茶碗に口を付けた慎吾は一口、含み。
ごいうくっと大きな音と共に飲み込んだと思ったら。

「何や、天音〜!めっちゃ、苦いやないか〜!」

言うと思ったのだ、絶対。
だからこそわざわざ、お薄にしてやったと言うのに。

「慎吾、みっともないですから大きな声は出さないように」
「せやけど〜。口の中、にがにがやん〜」
「これでも薄い方のお抹茶なんですよ」
「詐欺やん、こんなん。売っとるお菓子の抹茶味は、もっとこう。甘うて、美味いやんか!」

やった。
ここが、じいさまの茶室で良かった。
他に人間のいない、茶室で良かった。
やはりこの脳ミソ筋肉は、このような風雅な会には出してはいけないのだという事を、私は改めて理解した。

「いや、面白い!坊、本当にこの男は面白いぞ!!」

ところが、私が慎吾の情けなさに眉を顰めていると言うのに驚いた事にじいさまは、大喜びだ。
どうしてしまったのだ、一体。
もしかして慎吾の近くに居すぎて、じさまの脳まで筋肉に侵されてしまったのでは、ないだろうか?

「決めたぞ、野乃香」
「はい?おじいさま、どうかなさったの〜」

じいさまは突然、野乃香に向き直ったと思いきや。

「この男、気に入った。世界を獲るとか何とか言っておったが。こいつなら本当にやるかも知れん。もし、そうなったならその先は久恩院の総力を持って、バックアップしてやろうではないか!」


本当に、世の中何が起こるか分からない。
ひょんな事から慎吾は、これからの人生にとって物凄い力を持つ家を、味方につけてしまったらしい。