2005年 1月 22日(土)

バレンタインデー再び

あれから甘ったれるだけ甘ったれて行った慎吾は、帰り際に一言呟いていった。

「もうじきバレンタインデーやな。」と。

バレンタインデーか…。去年のバレンタインデーはたしか散々だったはず。
誤解が生じて、沢山泣いてしまったし、酷く傷つきもした。
あんな思いをまた味わうのなら、もう2度と手作りチョコなんか作りたくない物だ。
それなのに、慎吾はケロリとそれらも忘れて、無邪気な顔でおねだりの姿勢だ。

大体、バレンタインデーにチョコレートを贈るなんて言うのは、製菓会社の陰謀なのだ。
バレンタインデーの本場の諸外国では、贈り物をするのにそんな決まりごとはないのだと言う。
それに今時、こんなイベントでもなければチョコを手渡せないシャイな女の子が、この日本にどれくらいいるというのだ。
それにそもそも! どうして私が女の子のイベントに参加しないといけないのだ!

ということで、今年は慎吾には我慢をしてもらおう。
しかし、あの慎吾のことだ。なにも無しと言えば、すねまくるに違いない。
仕方ない。コンビニでなにか買ってこよう。この間食べたショパンとかいうチョコレート菓子は美味しかった。
あれでいいや。

そんなことを思いながら日溜りでぼんやりしていると、白雪君が通りかかった。
言い遅れたが、ここは生徒会室だ。役員なんてとっくに辞めたのに、なぜか足が向いてしまう。
白雪君は私が広げている雑誌に興味を持ったようだ。

「天音先輩…、なにを読んでいらっしゃるんですか?」
私が広げているのはスイーツ特集…それもチョコレートの記事だ。確かに違和感はあるだろう。
「ああ…これですか。今年もそろそろそんな季節だなあと思って…。」
白雪君は、小鹿のような瞳をパチパチと瞬かせた。

「そう言えば、チョコレートって冬限定の物とか多いですよね。
やっぱり夏場は溶けちゃって人気がないのかも。あ、これなんか美味しそうですね。
慎吾先輩にプレゼントなさるんですか?」
「ええ、まあ…。あの筋肉には、コンビニチョコで十分だと思っているんですけどね。」
私の言葉を聞いた白雪君は、目を見開いて、それから屈託なく笑った。
…別にそんな面白いことを言ったつもりはないのだが。

「ああ、おかしい。でも、ここの学校って、いろんな伝説とかあって面白いですよね。
バレンタインデーにアーモンドの入った手作りチョコを作って、校内のどこかに隠して、それを意中の人が下校時刻までに見つけ出せると、
思いが永遠に続いて離れないばかりか、なんでも一つ望みがかなうって本当ですか?」
「………そんな伝説、あるんですか?」
「俺はクラスの子に聞きましたけど…。先輩に教わったって。」
それは私も初耳だな。

しかし…この真面目な白雪君が言うのだ。ある程度、信憑性のある伝説なのだろう。
私と慎吾との思いが永遠に続いて離れないのは、これはもう決まったようなことであまり興味はないが、
望みがなんでも一つかなうというのは…かなり魅力的かも。

無意識に私はページを繰っていた。
アーモンドを使った手作りチョコ…。どんな物があるのだろう。
また野乃香にでも指南をこうことにしようか。