2005年 1月 23日(日)

祥太郎のおねだり

そうこうしているうちにいつものメンバーが集まってきた。
雪紀や直哉まで…みんな暇を持て余しているのだろうか。
子犬ちゃんたち(これは現役役員なんだから当然なのだが)もやってきて、私が見ていたスイーツ特集のページを見ては大騒ぎだ。
もっとも彼らは、プレゼント用と言うより、自分で食べたいらしい。

「な〜に〜? なに見てるの〜?」
間延びした声を出して、祥太郎先生がやってきた。
「あ、祥太郎先生、ほら。チョコレートの特集ですよ!」
「あ、本当だ。美味しそうだねえ〜。」
甘い物好きな祥太郎先生は、それだけでニコニコと無邪気な微笑を撒き散らしている。

「もうじきバレンタインデーですから。俺も今年は手作りチョコに挑戦しようかな〜。」
「え、咲良、去年はどうしたの?」
「俺はさあ、日本じゃバレンタインデーにチョコレートをあげるなんて知らなくて、当日慌ててデパートにかけこんでゴジバを買ったよ。
雪紀さんは口がお上品で、そこらで買ったチョコじゃダメだっていうんだもん。」
そう言った咲良は、その後なぜか顔を赤らめて、うっとりした目をしている。
…さてはその後、そのチョコレートを餌に、また雪紀に変態行為を迫られたに違いない。
まったく、雪紀は手が早いんだから…。

「じゃあ、今年は俺が教えてあげる、チョコレート作り。
そうだ、祥太郎先生も一緒にいかがです?」
「え、僕?」
いきなり瑞樹に振られて、祥太郎先生は目をぱちくりさせている。

「去年は先生、バレンタインデーに、直哉先輩に飲みかけのココアを上げて、お茶を濁しちゃったでしょ。
今年はそんなんじゃ絶対ダメ! どうしてもチョコをあげてください。」
「そうだよ! 直哉さんも、…雪紀さんも、3月には卒業しちゃうんだから、これが最後のチャンスなんですよ!」
そう言いながら、もう咲良は涙腺が決壊しそうだ。
大学部はすぐ隣だと言っても、寂しい物は寂しいのだろうな。

「うーん…、だけど、直哉君は甘い物はキライだよ?」
祥太郎先生は小首を傾げた。…またなにか悪巧みをしているのに違いない。
「それでも、祥太郎先生からもらうチョコなら、直哉さんは絶対食べます! 
どうしてもダメなら、祥太郎先生がビターなチョコを作ればいいんです!
この間のココアだって、額中に血管浮かせながら、結局全部飲みきったんですから!」
……そうだったのか…。
それは直哉…気の毒に。

「そうなの? 直哉君、チョコ欲しい?」
祥太郎先生は直哉のほうを振り向いて問い掛ける。
直哉はごくんと生唾を飲みこんで、それから慎重に頷いた。
「そっかー。それじゃ、その額中の血管って言うの、見せてもらおうかなあ…。」
「…私からもお願いしますから、どうか直哉用には苦味の強いチョコを作ってください。」
蒼白になる直哉が気の毒で、思わず助け舟を出してしまう私も、大概お人よしだな。

「うーん、面倒くさいなあ…。」
祥太郎先生はちらりと直哉を見上げた。
「本当に欲しい?」
「…頂ける物なら。」
冷静を装う直哉。しかし物欲しげに指がわきわき動いている。

「それじゃあさ! 僕、お願いがあるんだけど!」
祥太郎先生は直哉をじっと見上げて、顎の下で両手を組んだ。
小首を傾げて上目遣いになって…ああ、いつもの悩殺おねだりポーズだ。
「あのね、僕、一回でいいから、成績表のトップに直哉君の名前を見たい!」
直哉がカキンと固まった。

私たちの学年では、雪紀が万年主席、直哉が万年次席と言うのは、入学当初からのお約束みたいなものだ。
恐らく直哉はわざとそうしている。二人の実力は常に拮抗しているから、こんなにいつもいつも雪紀が勝つと言うのはちょっとふに落ちないところもあるのだ。
確かに見栄っ張りである意味単純な雪紀は、持ち上げておいた方が扱いやすい。
それに直哉は、一番として頂上に輝くよりは、その背後で糸を引く方が性に合っている筈だ。
それを知ってか知らずか…祥太郎先生のおねだりは、二人の均衡にひびを入れるような無謀さだ。

固まっていた直哉がふうとため息をつくと、全身の力を抜いた。
そうして、ちゃっかり生徒会長席のゆったりした椅子に腰掛けていた雪紀を振りかえる。
「…と言うわけだ。祥先生がご所望なんでな。悪いが雪紀、この次のテストの席次は、俺が主席を取らせてもらうぜ。」
「ふん。そう言われておめおめハイそうですかと主席を譲ってやれるかよ。」
二人の間に火花が走った…気がする。
「あれっ? なんだか波瀾の予感?」
祥太郎先生…あなたが焚き付けたんでしょうに…。

3年生ともなると、3学期の期末テストはもうなく、2月始めの実力テストがそれに当てられる。
二人の間でめらめら炎が燃え上がっているのが見えるようだ。
しかしそれが…万年3位の私を全く蚊帳の外にしているところが…なんとも気に食わないな…。

しかし…本気の直哉と雪紀の対決…これは面白くなりそうだ!