2005年 1月 25日(火)

真剣。

「ったく、人が必死になって勉強している時に何するんだ」

ぐるりと後ろを振り返って、小さな声でそう言った直哉の頬がぴくぴく引き攣っている。
一応、図書館という事で「小さな声」で話をする辺り、直哉らしいといえばらしいが。

「だって、あなたがそんなに真剣な顔で勉強をしているものですから・・・」

つい、ほんのちょっと。
可愛らしい悪戯心だったんですよ?
思い切りシナを作ってそう返してみたのだが、それはどうやら直哉のお気に召さなかったらしい。
嫌味たっぷりに顔をしかめて。

「全然、可愛くないぞ・・・・・」

低い声でそんな風に返された。
どうせね、直哉にとって可愛いのは「祥太郎先生」でしょうし。
いいんです、直哉にとって可愛く見えなくとも慎吾には十二分に通用しますから!
ああ、そうでした。聞きたい事があったんです。

「そう言えば、直哉。今になってこんな参考書を読み漁ってどうしたのですか?」
「いや・・・・・」
「直哉でしたらこんなもの見なくたって、雪紀と張り合えるでしょうに」
「だから、そこなんだ」

そこ、とは。
湯飲みの、底?

「祥太郎先生の手前、こっちも雪紀に喧嘩売っちまったも同然だからな」
「まぁ、それは確かに」
「だから、どうせ勝たなければいけない勝負だったらギリギリで勝つよりも、余裕で勝ちたいじゃないか」
「・・・・・・・・・そう言うものですかね」
「ああ。何たって相手は雪紀だぞ?いくらあいつが表面では平気な顔をしていたって今頃、死に物狂いで勉強している筈だからな。侮っていたら恥をかくのは俺の方だ」

全く、面白い事この上ない。
結局直哉は、全面的に雪紀を認めているだけじゃないか。
尤もそうでなければ今まで、影に甘んじて雪紀の補佐なんてしてないか。

「まぁ、せいぜい頑張って下さい。私は万年3位で満足していますから」
「天音?」
「本気になったあなたや雪紀と、正面からやり合う気概は私にはありませんからね」

それに。
私の事なんかよりも、慎吾の勉強を見るほうが余程忙しい。
推薦とは言え、大学部へ進学するのだ。
あまりにも「まっ赤」な成績表を持たせて行かせる訳にはいかないでしょうし。

「とにかく、私はこれ以上の邪魔はしませんからどうぞ安心して勉学に励んで下さい」
「言われなくたってそうするさ」

・・・・・・・・・・・・・何だか今の物言いは、物凄くムッとしたぞ?

「ああ、それから」
「何だ・・・まだ何か・・・・・」
「祥太郎先生、あれだけ直哉に勝ってっておねだりしていたのですから。きっと直哉が勝ったら、どんなご褒美でも下さるんじゃないですか?」
「褒美?」
「そうですよ、例えば・・・・・・・・」

例えば、と前置きして。
私は直哉の耳元に口を寄せると、ご褒美の内容を言ってやる。

「ばっ、天音っ!祥先生がそんな事してくれる訳ないじゃないかっ!!!」
「わからないでしょう?そんな事」

あはははは、直哉め顔中茹蛸みたいに真っ赤になっているぞ!
本当に、どうしてこの顔と、性格と。散々遊んでおきながら、祥太郎先生一人にそこまで純情なんだろうか。
だからつい、構ってしまうのだ。