| 2005年 1月 3日(月) |
初詣
来客ラッシュもようやく一段落ついて、少しぼんやりしていると、おばあさまに誘い出された。
「天音さん、手がお空きなら、氏神さまへ詣でに参りましょう。
今日はまだ縁日が出ていると思いますから、天音さんのお好きなべっこう飴を買って差し上げてよ。」
この年になってべっこう飴もないとは思ったが、おばあさまのウキウキした表情が可愛らしくて、私は頷いていた。
我が家から歩いて15分くらいの位置に、我が家の氏神さまである氷川神社がある。
私はそこでお七夜も七五三も祝詞を上げていただいたという、縁の深い神社だ。
とはいえ、例年なら3が日を過ぎた頃に、慎吾と二人で大きな神社に詣でるのが常なので、随分長いこと、ここの鳥居をくぐっていない。
古い石段を登って境内につくと、そこには参拝客が見られた。
おばあさまは楽しげに鈴を鳴らし、綺麗に拍手を打った。
私もおばあさまに倣って手を打った。頭を垂れると、それなりに厳かな気分になる。
おばあさまの勧めで、お御籤も引いてみた。縁起よく、大吉だった。
「でも、本当に、天音さんとお氷川様に来るのは久しぶりねえ。」
破魔矢を抱えたおばあさまは、約束通り、べっこう飴の屋台の前で足を止められた。
真剣な目つきで飴を選んでおられる。さてはご自分が召し上がりたかったのかと、少し微笑ましく思った。
「天音さんはねえ、ここの神社があんまりお好きではなかったのよ? 覚えておいで?」
「ええ…まあ、そんな気もします。」
どうしてだかは分からないのだ。それは実は、私の長年の謎にもなっていた。
ここの宮司さんは大層子供が好きで、私は随分可愛がっていただいた記憶がある。
それがあるときからぷっつり神社が嫌いになってしまったのだ。
「あれは、天音さんが5つのときだったかしら。七五三の参拝のあとだから、そのくらいね。
天音さんがどうしても鳩を見たいって、ここに来たときがあったのよ。」
それは…にわかには信じられない気分だ。
私の動物嫌いは全般にわたっており、今だって飛んでくる鳩たちがなるべくそばにこない位置で話をしているのだ。
「縁日が立っていてねえ、ポップコーンを持たせてあげたの。そうしたら、知らない子と喧嘩になっちゃって。」
おばあさまはさも楽しげにコロコロ笑われる。
「天音さん、力負けしたのね。まだ小さい頃だったし、あいては大きかったから仕方なくはあるんだけど、その子にポップコーンを取り上げられちゃってね。
頭から全身に、それをぶちまけられちゃったのよ。」
「はあ…。」
なんだか聞きたくない展開の気がする。
「そうしたら、鳩たちが全部群がってきちゃってねえ。天音さん、全身鳩まみれになっちゃったの。
つつきまわされていくつも痣ができちゃったし、ようやく鳩を追い払ったら、一張羅が鳩の糞まみれですごいことになってたわ。」
次第に…思い出してきた。私が生き物を苦手な理由…。幼い頃からのトラウマの原因が…こんなところで露見するとは!
「天音さんたら、泣きすぎて引きつけ起こしてたわね。あれ以来かしら、天音さんの動物嫌いは。
なんだか、とっても懐かしいわ〜。」
………助けてくれればよかったじゃありませんか!
興が乗られたのか、私の恥ずかしい思い出を次々披露しながら、おばあさまは上機嫌だ。
私はちょっと唇を噛みつつ、こんな私に育ててくださったおばあさまの所業を…胸の奥深くに刻みこんだのだった。