2005年 1月 6日(木)

気持ちの行方

「あ、天音ちゃん。その辺に勝手に座ってね?今、お茶を持って来させるから〜」

そういい残して野乃香はぱたぱたと、廊下を走って行ってしまった。
一人部屋へ残された私は手持ち無沙汰もいい所だ。
しかたなく部屋の中で視線を彷徨わせると、机の上に飾られた野乃香と皐月嬢の写真が目に留まった。
静かに机へと近づき、その写真立てを手にとって見る。
野乃香らしく、シルバーのフレームにアクリル製のクマやウサギが可愛らしい色彩でくっついている事に、私は思わず微笑んでしまった。
そして。
写真に写っている野乃香もとても幸せそうな笑顔をカメラに向けている。
私は・・・・・これから先、いつもこんな笑顔を野乃香にさせている事が出来るのだろうか。
そんな想いが込み上げてくる。

「お待たせ、天音ちゃん〜」

出て行ったときと同様にぱたぱたと軽やかな足音を立てて野乃香が部屋へと戻って来た。

「・・・・・どうしたの?天音ちゃん、何か変なお顔してるよ?」
「何でもないですよ。ただ」
「ただ?」

小首をかしげてきょん、とした目で私を見上げる野乃香は本当に可愛らしい。

「この写真の、あなたの笑顔を・・・・・私はずっと、守っていく事が出来るのかと。そんな風に思っただけなんです」

そう答えて私は手にしていた写真立てをそっと机の上へと戻した。

「やっだー天音ちゃん、そんな事考えていたの?」

突然野乃香がきゃらきゃらと笑い声を上げた。
何でここで笑うのだろうか。私は私なりに真剣に考えていたと言うのに。

「天音ちゃんはそんな事、考えなくていいんだよ」
「・・・・・野乃香?」
「私の方が、天音ちゃんに無理を言っているのに。天音ちゃんがそんな事を考えて、悲しそうな顔をしたら野乃香、どうしていいのか分からなくなっちゃうよ。
野乃香はいつだって、笑顔でいられるよ?だって天音ちゃんの事は大好きだし、天音ちゃんが野乃香と結婚してくれるから皐月ちゃんとだって一緒にいられるし。
だからね、天音ちゃんは野乃香の事で悩む事なんてないんだよ。天音ちゃんは、どうやったら慎吾ちゃんと幸せにいられるかだけ考えていたらいいんだよ?」

野乃香の小さく白い手が、私の手にそっと重ねられた。
思っていたよりもその手は本当に小さく華奢で。
ほっそりとしたその指に、先程の指輪が煌めいている。

「・・・・・・・・本当に」
「え?」
「本当に、野乃香は後悔しませんか?」
「・・・しないよ?」

にっこりと微笑んだ野乃香に私の胸は益々締め付けられる。
きっとこれから先、私は何度も何度もこの笑顔に助けられ、導かれるに違いないのだ。
女性と言うものはどうして。こんなにもしなやかで強靭な精神を持っているのだろうか。
未だ「少女」の域を出ない野乃香も時として、こんな風に「女性」であることを滲ませる。
この強い心は、どんな気持ちから生まれるのだろうか。
男である私にはおそらく、死ぬまで理解し得ない事なのだろう。