2005年 2月 1日(火)

もうすぐ節分。

「あ、それはそうと天音さん!」
「・・・・・何ですか、いきなり」

ひそひそと話をしていた筈の咲良が突然上げた声に、私は驚いた。
だがそんな事で驚いたなんて、バレたら恥かしいので必死になってそれを隠したのだが・・・・・良かった、誰も気が付いてはいないようだ。
祥太郎先生は相変わらず暢気にお茶を飲んでいるし、隼人は隼人でうんうん唸っている。

「あのね、もうすぐ節分じゃないですか」
「まぁ、確かに」

明後日は確かに節分だ。

「でね、急なんですけれど。皆で豆まきをしませんか?」

・・・・・・・・・・豆まき?

「それは、内々でという事ですか?」
「ううん、学校で!」

ここでやるの!
そう言って目を輝かせた咲良の言葉に飛びついたのは何と祥太郎先生だった。

「えっ!?やる、やりたいっ!」
「でしょう〜!」
「うんうん、季節ごとの行事は大事だからね!」

またしてもお子様コンビ復活の予感に私の顔は引き攣った。



「節分は、本当に大事な行事だったんだよ?」

どうしてなのか分かる?

ふいに祥太郎先生が教師の顔に戻って聞いてきた。
咲良はきょとんとして顔をふるふると振っている。
隼人もえっ?と言った様子で固まってしまっている。
まぁ、いきなり教師に戻られたんじゃ驚きもするか。

「元々は中国の行事だったんだけど。日本だって随分と昔から、鬼を祓うって事を物凄く大切にしていたんだ。
鬼やらい、とか「ついな」とかって言っていたんだけどね」
「・・・・・・・・・・・そんな難しい言葉、しりませんよー」
「俺も知らないぞ」

おや、二人とも素直な生徒に変身している。
そんな二人の様子に祥太郎先生は満足そうに頷いて、こほんと小さく咳払いをした。

「昔の暦はさ、ちょうど今ぐらいの時期から春になるんだけどね。
鬼っていうか、まぁ・・・・・簡単に言えば「魔」を祓って、よき季節になりますようにってお願いをしていたんだと思うんだ。
平安の頃でも鬼の面を被って、そういう扮装をした者に空弓を引いたりして宮中から追い出して、その年の無事を願ったりね」
「でもさ、鬼なんて本当にはいないでしょ?」
「う〜ん・・・・・そうなんだけど。鬼って一口に言っても、本当の鬼じゃないって言うか」
「じゃぁ、何で鬼なんだよ。いないもん祓っても仕方ないじゃん」
「・・・・・・隼人くんはさ、嫌な気持ちとか悪い心とかってどう思う?」

おや、隼人が捕まった。

「どうって言われても。そういう気持ちって、仕方ないんじゃねぇの?なぁ?」

隼人は困ったように顔を顰めて、咲良に同意を求めている。

「そう、それなんだ。人の心に住むそういう負の感情を、昔の人は鬼って言う言葉で表現したんじゃないのかな。
つまり、心の中からそういうマイナスの感情を追い払って、穏やかで優しい気持ちで過ごせたら皆が幸せになれるって考えたんだよ。
考えてごらんよ、今だって気持ちを表したり状況を言い表したりするのに「鬼」のつく言葉って幾つかあるじゃない。
あ、今応えなくてもいいから。そうだね、今度の試験にこれ出そうかなぁ?」

それまでにちゃんと勉強しておいてね?
そういい残して祥太郎先生は出て行ってしまった。
講義をした事で、自分の立場を思い出しでもしたのだろう。

咲良と隼人は顔を見合わせながら、何だったんだといった様子で祥太郎先生の出て行ったドアを見ている。
・・・・・・・・・・・豆まき、本当にやるきだろうか。
ああでも祥太郎先生が随分乗り気だったからな。
今夜辺り直哉にでも強請って、明日にはここへ直哉がやってくる事請け合いだな。