| 2005年 2月 13日(日) |
ネボスケの起こし方
チョコレートの製作状況はといえば…。
大小様々なチョコレートがおよそ15種類。もちろん中には私が作ったアーモンドのチョコレートもあるが、ほとんどが咲良たちによる力作だ。
大ぶりなのが咲良作。小さくてごてごてしているのが瑞樹作。そして、数は少ないもののそのまま店頭に並べられそうな精密なつくりのものが白雪作だ。
私は白雪の作ったチョコを一つ取り上げて感心して眺めた。
どのように作ったものやら、きれいなチューリップの形に整っている。
「これは白雪が作ったんでしょう? 器用ですねえ。」
「あ…はい。俺、小さいころからこういう細かいことが得意で。」
恥ずかしそうに頬を染めてうつむくしぐさがかわいい♪
「あーずるい、天音さん、俺たちのも褒めて!」
「そうだよ、この猫なんて傑作でしょう?」
…それは猫だったのか。
しかしまあ、口にするほどのこともないので、にっこり笑って褒めてあげる。
そして、これも白雪が用意した4つの16分割の箱には、一箇所欠落ができている。
「このスペースには祥太郎先生に作ってもらったものを入れようと思っていたんですけど、先生まだ起きないかなあ。」
咲良が首を伸ばしている。時間を見ると、もうそろそろ5時になろうかという時間だ。
1時ごろからずっと寝ているのだから、もう起こしてもいい頃だろう。直哉だってそろそろ帰ってくるはずだ。
「それじゃあ、起こしてきましょうかね。」
私は腰を上げた。それと同時に物音がして、咲良たちはそちらに神経を奪われたようだ。
ドアを大きく開けると、隣室の光が入ってまぶしかったのか、祥太郎先生はヤドカリみたいに布団の中に引っ込んでしまった。
私はベッドの側まで近づいて、そっと小さな布団の山を揺すった。
「先生、起きてください。せっかくだから一つくらいチョコレートを作ってくださいよ。」
直哉にだって家賃代わりに上げないといけないのだから。だが。
「………うーん…。」
もぞもぞとさらに丸まってしまう。手ごわい。
「先生。もう夕方なんですから。お忙しいんでしょう? こんなところで時間を取っている場合ではありませんよ!」
少し強く言ってみる。それでもまったく効果なし。
足音が近づいてくる。背後でドアを開ける気配が感じられたが、こっちも意地になっていて、そんなことにかまってはいられない。
それで思いついて、祥太郎先生の体に這い寄るようにして耳元に口を近づけた。
吐息がかかるような距離でしゃべれば、あるいは目を覚まさせることができるかも。
「…祥太郎先生、もう起きる時間ですよ。」
わざと声も低めにして。これが慎吾なら一発でノックアウトできるとっときの声だ。
すると布団の山がもぞもぞと動いた。
跳ね起きる反応を期待していた私は、おや?と首を傾げた。
布団の下からにょきりと両腕が伸びる。ゆるいシャツの袖が捲くれあがって、やわらかそうな二の腕まで露出したしどけない姿だ。
その腕が油断していた私の首にゆるりと絡みついた。きゅっと締め付けられて、祥太郎先生の上に覆いかぶさるように体が傾く。
あれ…? これってもしかして、抱きすくめられてる?
あせる私の耳元に、祥太郎先生の舌足らずな声が聞こえてきた。
「う…ん、直哉君、もう朝…?」
え…?
それって…?
「うわあっ! 天音さんが祥太郎の寝込みを襲ってるっ!」
突然背後から響いた大声に、私は思わず飛び上がりそうになった。
祥太郎先生の腕も一瞬硬直して、それからするりと解ける。
私は振り返って顔から血の気が引くのを感じた。
後ろには仁王立ちになった直哉、その背後からは今更ながらに口を押さえて自分の失言を取り消そうとしている隼人。
直哉の眉間の皺が…見る見るうちに増えていく…。
待て! これは事故だというのに!
咲良たちが止めに入ってくれなかったら…私はいったいどんなことになっていたやら。
「もう、国見君が変な起こし方するんだもんな。寝ぼけちゃったよ。」
とは、祥太郎先生の談である。
祥太郎先生…それでは一方的に私が悪いみたいじゃありませんか…。
しかし私はこの耳で、あの決定的な一言をしっかり聞いた!
怪しい怪しいと思っていた祥太郎先生と直哉との仲も…卒業を間近に確信が持てて、それだけでも今日は大収穫だった。
祥太郎先生が悔しげな顔で、白雪に何か聞いていたが、私は浮かれていたのでたいした注意も払わなかったのだ。
それが明日のバレンタインデー当日にどんな影響を及ぼすかも知らずに…。