| 2005年 2月 26日(土) |
直哉宅にて
「それでどうして全員で俺んちに来るんだよ!」
直哉が吠えている。
今回ばかりは私もうんうんと同情を禁じえない。
まったく…どうして卒業式の下準備に私たちが狩り出されねばならないのだ。
卒業生の私たちが!
「だって、雪紀さんと直哉さんは、白鳳のカリスマだし!」
「天音さんはマドンナだし!」
…なんか誉められている気がしないが、一応お世辞を言っているつもりなのだろうな。
「なあなあ、俺は俺は?」
慎吾がさも悔しそうに二人に聞く。
雪紀と直哉と私の名前が挙がって、自分が上げられなかったのが不満なのだろう。
「えー、慎吾さんはえーと、白鳳の番…。」
「と、闘犬です! 闘犬!」
「闘犬! いやあ〜、なかなかかっこえやないの!」
何か言いかけた咲良を遮って、瑞樹が訂正した。
番犬が闘犬になったところで大して変わらないと思うが…。
そして慎吾、少しは気づけ。あからさまにその場しのぎだぞ。
「とにかく、お力を拝借したいんです! 在校生のみんなだって、このメンバーが立てた草案なら、喜んで従います!」
「おまえら…自分たちで何とかしようとか、そういうつもりまったくないだろ。」
「「はい!」」
声を揃えるな、声を…。
「まあいいじゃないか、直哉。慕われてる証拠だ。」
散々もてあそんでいたタバコを、ついに咥えた雪紀が、からかうように言う。
おとなしい白雪が敏感に、わずかに眉をひそめ、それに気づいた隼人がぎゃあぎゃあとわめいた。
「雪紀さん! こんな人口密度の高いところでタバコなんて止してくれよ! 吸わねえやつのこともちっとは考えろよ。」
「ほーう、いつからそんな生意気な口が利けるようになった、隼人。」
雪紀はムッとしたように眦を吊り上げた。
「だいたい、人口密度が高いのは俺のせいじゃない。こんな狭い部屋に住んでる直哉のせいだ。」
「そんなに狭くないで〜。寮ならこの半分の部屋に3年間住むんや。それにここは、この部屋だけやないし。」
それはそうだ。こんなに成長しきったわれわれが、12畳ほどの部屋に集結してしまったから窮屈なのだ。
「おまえなあ、そんなこと言うなら、自分の家を提供すればいいだろうが。
ここは俺専用のマンションだ。一人暮らしならこれで広すぎるくらいだ。」
直哉の言うのももっともだ。
「あのう…、雪紀さんは今、佐伯さんと喧嘩中なんです…。」
「おや、珍しいですね。」
長い付き合いだが、雪紀と佐伯氏が喧嘩したなどとはついぞ聞いたことがない。
というより、佐伯氏が圧倒的に大人で、雪紀がまともに張り合わせてはもらえなかったのだ。
ということは、雪紀もいよいよ佐伯氏に一人前として認めてもらえたということなのだろうか。
「この間のテストが単独首位じゃなかったでしょ。そのうえ、送辞を辞退しちゃって。
佐伯さんはそれを聞いてカンカンなんです。住園の次代が何たることかって…。」
「うるさいぞ、咲良、しゃべりすぎだ!」
苦りきった表情で、雪紀がいまさらストップをかける。
それでなんとなく不機嫌なんだな、雪紀は。
「でも…皆さんが卒業まであと、2週間しかないなんて…寂しくなっちゃうなあ。」
瑞樹がしんみりとつぶやいた。とたんに咲良もシュンと項垂れる。
「俺…雪紀さんがいない白鳳なんて、つまんなくてヤダ…。」
「…すぐに追いついて来るじゃありませんか。」
二人のしょげぶりがかわいそうで、思わずやさしい口調になってしまう。
「ねえ先生、先生だって寂しいよね。」
「ん?」
そういえば珍しくあんまり静かなので忘れていた。
ここには祥太郎先生もいたのだ。
「んー僕? 僕はぜんぜん寂しくないよ。」
「えっ、本当ですか!」
祥太郎先生のけろっとした言葉に、咲良が気色ばむ。
「だって、去年もカノン君たちを送ったし。そうしたら、また新しい生徒が入ってくるし。僕は多分白鳳をしばらく動かないし。」
祥太郎先生は、読みかけていた本を閉じた。
「古い生徒たちにはどんどん回ってもらわなくちゃ。僕が困っちゃう。」
「そんな言い方って…。」
瑞樹が言葉を呑んだ。