| 2005年 2月 3日(木) |
豆まきの実態
慎吾が鬼を引き受けたと聞いた咲良の行動は実に素早かった。
あっという間に今日の支度を終えて、晴れて今日と言う日を迎えてしまった。
・・・・・・・・絶対に、かなり前から準備を進めていたに違い無い、と思えるほどにその手際は良かった。
どうやら影では瑞樹や白雪と言った実働部隊が暗躍していたらしい。
私に話を振ったのは、一応前役員にお伺いを立てた、という事実が欲しかっただけなのだろう。
全く、あんなに素直だった咲良は何処へ行ってしまったのだろう。
この手腕は雪紀にも匹敵するぞ。
底冷えのする行動に集められた全校生徒は、何故かジャージ若しくはそれに近い姿を強要されていた。
制服ではマズイ何かがあるのだろうか。
そうこうしている内に、咲良は壇上へその姿を現した。
後ろには瑞樹、隼人そして白雪も控えている。
「お待たせしました。今から豆まきを始めたいと思います。っと、その前に簡単にルールの説明をさせて貰います」
ルール?
豆まきに一体何のルールがあると言うのだ。
咲良の言葉を不審に思ったのは私だけではなかったらしい。
生徒の間をすり抜けて、雪紀と直哉が私の隣へとやって来た。
「おい、天音・・・・咲良の奴、一体何を企んでいるんだ」
「知りませんよ、そんな事。雪紀が知らないのにどうして私が知っているんですか」
そう切り返せば雪紀はうっ、と言葉に詰まってしまった。
やれやれ、雪紀すら知らないなんて。
本当に何を考えているのだろう、咲良は。
「ええと、各クラスの委員長には既に豆は行き渡っていますよね?まずは各自それを貰ってください」
咲良の言葉に従って、前の方から順次豆の入った袋が回されてくる。
「ルールは簡単です。鬼にぶつけるだけなんですが」
・・・・・・・・普通の豆まきじゃないか。
「ですが、鬼の方も反撃して来ます」
・・・・・・・・反撃?鬼の?
「鬼はこれと同じ様なエアガンを持っています」
咲良が手に持ったエアガンを頭上に翳した。
何で豆まきにエアガンが必要なのだ、しかも鬼に。
「この中にはペイント弾が装備されています。皆さんが鬼を追いかけて豆をぶつければ、鬼はこのペイント弾で反撃して来ます。
この講堂からスタートして、最終的にまたここへ戻ってくるルートを設定していますが、鬼からペイント弾を受けた生徒は失格になります。
豆を撒いて、鬼を追いかけてここへ戻って来たときに一番人数の多かったクラスが優勝です」
・・・・・・・・・・・・・・・そんな事を考えていたのか、咲良。
何があっても勝敗を付ける行事を考え出さねば気が済まないのは、最早、白鳳生徒会の伝統なのだろうか・・・・・・。
「それでは鬼に登場してもらいますね」
咲良の声を合図に、鬼の軍団が登場してきた。
ああ、やっぱり。
慎吾の考えそうな事だ。
この寒いのに、水泳パンツ一枚の姿でぞろぞろと・・・・・。
しかも何だ!その手に持っているエアガンは!
咲良が見せた物よりも随分と大きく、銃身も長いではないですか!
あれはライフル・・・と呼んでいい代物だ。
機銃照射でもやらかすつもりなのか、お前達は!
「ほーい、鬼さんの登場やで〜!せいぜい頑張って、俺らをここへ追い詰めたってや!ほな行くで!」
慎吾の掛け声と共に、以下数十名の水泳部員達が時の声を上げた。
そして物凄い勢いで散開して講堂から飛び出して行く。
一瞬の出来事に呆然としていた生徒達も慌てて豆の袋を片手にその後を追いかけ始める。
もう、何と形容して良いのか分からないほどに、全てがくちゃくちゃだ。
「おい、天音ぼさっとしてるな!」
「行くぞ!早くしろ!!」
え?と思う暇もなく雪紀と直哉に両腕を掴まれ私は引き摺られてしまった。
「何なんですか、あなた達は!他の生徒と同じ様に熱くなるなんて、おかしいですよ!」
「煩いぞ!ぼけっとしてたら俺たちが狙われるじゃないか!」
「そうだぞ、天音!後から慎吾の奴に馬鹿にされるじゃないか!翔先生だって見てるんだ、負けてたまるか!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・あなた達こそ、鬼でしょう。
鬼に決まっている。
「分かりました、分かりましたから!腕を離してください!走りにくいじゃないですか!」
仕方なく付き合う事を決めた私は髪を振り乱し、鬼を追いかける事に専念した。
もう自棄です。
袋の中が空になるまで、慎吾に豆をぶつけてやる!