| 2005年 2月 5日(土) |
豆まき その後
そうして走ること10数分。
ペイント弾まみれになって落伍する生徒が半数にも上る中。
私達もと生徒会OBはまだ3人とも健在で走っている。
雪紀と直哉が卓越した反射神経で避けまわるのは当然として、どちらかと言えば運動が得意でない私が生き残っているのは、ひとえに親衛隊の諸君のおかげだ。
さぶいぼをいっぱい立てた鬼たちが、私にねらいをつけると、身を挺して私をかばってくれる。
たまには、親衛隊の連中にも感謝をしないといけないな。
…いや、私が無理に彼らを盾にしたわけでは、断じてないぞ!
しかしそうして闇雲に汗を流しているうちに、私はこの大会の大きな理不尽に気が付いてしまった。
それは、こっちの武力が鬼に対して圧倒的に小さいことである。
つまり、鬼にはいくら豆をぶつけたところで、まあ多少は痛いかもしれないがそれだけのことなのに、
鬼のペイント弾があたった時点で有無を言わさず失格と言うのは、いくらなんでも不利過ぎる。
現に…私の豆はもう、底をつきかけているのだ。
対して前方を走っている鬼連中…特に、いつぞやの変態蝶々の格好をした慎吾は、断然元気である。
どう考えたって、こっちに勝ち目はない!
鬼達は労せずして全勝を納めることも可能ではないのか。
私は、また一人倒れた親衛隊の屍から豆を毟り取って、咲良を探した。
こんな不公正がまかり通っていい物か! 断じて抗議してやる!
すると、校内放送が…あれは瑞樹の声か?
『予定より早いですが、鬼駆除部隊が半数を割りました。
みなさん、頑張らないと、今年の白鳳は鬼に席巻されてしまいますよ!』
きいっ!
だからこれは片手落ちだと言うのに!
『このあたりで福男部隊を投入いたします。
後半周! 頑張ってください!』
福男部隊?
なんだそれは?
私は間近を走っている雪紀を捕まえた。
「なんですか、今の放送は?」
「知らん。あいつに直接聞いてくれ。」
雪紀の指差す先には、鬼に頭突きをかましている咲良がいる。
私はなんとか咲良を捕まえた。
「咲良! 福男部隊と言うのはなんです!」
「えっ? ああ、祥太郎先生が、豆まきをやるならぜひ参加したいとおっしゃって!」
あたりは阿鼻叫喚の状態なので、私も咲良も怒鳴りあう会話になってしまう。
「それで、祥太郎先生が自分から福男部隊を結成するっておっしゃって。
職員から福男を募られたようですよ!」
「だからその福男と言うのは!」
「なんでも数えで一回りの年齢の事だそうです!」
祥太郎先生は着任2年目だから、数えで24歳。
すると福男と言うのは…12の倍数の年齢の男という事らしい。
そうこうしているうちに、校舎の昇降口が開いて…中から現れたのは、物々しい武装の福男達…。
鬼と同じ、マシンガンのようなエアガンを携えた教師連中や、様々な職員達…。
あきれたことに、今年定年を迎える教頭まで混じっていて…待て。
なんで裃姿?
「あっ、直哉くん、住園くん、国見く…ふぎゃっ!」
まだ1歩も進まないうちから、祥太郎先生は裃の裾をふんずけてすっころんだ。慌てて直哉がすっ飛んでいく。
「んもー! すっごく歩きづらい、これ! いいや、こうしちゃえ!」
「祥先生! それはいくらなんでも…。」
直哉が止めるまもなく、祥太郎先生は裃の裾を全部たくし上げてパンツの中に突っ込んでしまった。
祥太郎先生が…巨大なかぼちゃパンツを履いた状態になっている…。
あれは一種お色気作戦?
「いやいや、教頭先生、なんだか血湧き肉踊りますなあ。」
「やや、これは厨房長。こんな派手なお遊びは、学生の頃の騎馬戦以来ですかなあ。」
裃軍団はすっかり寛いだ様子ながら、油断なくマシンガンを構えている。
鬼の一団が、年配と侮ってか、そちらに殺到した。
すると裃軍団はにこやかにマシンガンを構え…え?
いま、ものすごい音と火花が散らなかったか?
『なお、福男部隊の装備は、爆竹となっております。
そして、彼らは鬼駆除部隊への攻撃も可能となっております。
ただし、裃が破損した場合には、その攻撃権を失いますので、それを反撃のつてとして下さい。
それでは、健闘を祈ります。』
健闘って…マジで戦争ですか!
つまり裃に攻撃を加えれば、なんとか勝ち目が…って、
あんなマシンガンに狙われて、接近できるわけないでしょうに!
誰ですか! こんなルールを決めたのは!
「はーい! 僕、僕!」
祥太郎先生…そんな事だと思いましたよ。
結局、福男の投入によって、何がなんだかわからない大混戦になってしまった。
私はもっぱら逃げに徹することにした。つまり校内1周すればいいんでしょう?
わざわざ危険を犯して戦いに首を突っ込む奴がどこにいますか!
そうして死屍累々の有様でゴールしたのは、最初の人数のおよそ数%…。
保健室が大盛況で、前田先生の機嫌が最悪の中、学校を挙げての豆まきが終った。
これで本当に…厄落としになったのだろうか…? 大いに疑問が残った。