2005年 2月 6日(日)

強敵出現!

「あ〜、楽しかった〜。」
放課後の生徒会室だ。ぼりぼりと豆を食べ散らかしていた祥太郎先生がにっこり言い放った。
さっきまでの戦争のような豆まきに、実質参加しなかった瑞樹と白雪もにこにこしているが、他のメンバーは殆ど撃沈状態だ。
特に鬼役のリーダーとして走りまわっていた慎吾は惨憺たるありさまだ。
短い髪のあちこちがちりちりと縮れてしまっている。

「あんな…あんな武装がありかいな、咲良〜。」
「だって…祥太郎先生が絶対大丈夫っておっしゃるし…。」
「大丈夫なもんかい! ほれ、火傷や! ここも!ここも!
俺なんかリーダーや言う事で集中放火や。酷い目ェに会ったで!」
「え〜、あれはコントなんかで使う、火薬を殆ど抜いた奴だし、一人3発だけって決めておいたんだよ。
なんだい、そんな火傷、ちょっと赤くなっただけじゃん。」
祥太郎先生は慎吾の腕の赤くなったところを繁々眺めて、ぺいと投げ出した。むごい…。

「3発だけちゃうで! 体育の猪熊なんか、撃ちまくっとったわ、あのデブ!」
「ところで、結局勝敗はどうなったんです?」
大して興味もなかったが、慎吾のグラグラ煮えあがる様子を見たくなくて、無理やり話題を変える。
咲良はちょっと困った顔をした。

「結局…最後まで生き残った人たちが全チームをまとめてもものすごく少なくて、個人賞になっちゃいました。
物は、食堂の食券だったんですけど、それでも余っちゃいましたよ。」
「…苦労のわりには賞品がせこいって、苦情が出てたぞ、咲良。」
雪紀が渋い顔で言う。直哉がわきでうんうん頷いている。

「…しょうがないじゃないですか、俺のポケットマネーなんて知れてるし、突発行事だったから予算はないし〜。
福男達にスポンサーやってもらったから、あんな景品しか出せなかったんですよ〜。」
なるほど、それで職員参加か…。
「まあ、でも、楽しかったからいいじゃない?」
祥太郎先生…楽しかったのは、あなたくらいの物だと思いますよ…。

「さあ、そんな過ぎちゃったことをいつまでもぐちぐち言ってないで、豆食べて、豆!
年の数だけ食べるんだよ。そうすると、1年間、病気をしないですごせるんだって。厄落としだよ!
僕はもう年の数だけ食べちゃった。これで1年間は保証されるんだから!」
祥太郎先生が、嫌に急いている気がする。
なにか…魂胆でもあるのだろうか。

「年の数って言えば…。」
白雪がしきりに指を折りながらちょっとためらいがちに切り出した。
「祥太郎先生って、お誕生日いつです? なんだか前に真夏だって伺った気がするんですけど。」
「僕? 僕の誕生日は、8月の15日。真夏もいいところだよ。」
「………じゃあ、数えで福男じゃないですね。」
一瞬全員の動きが止まった。

「祥太郎先生、新卒で教師になられて、いま2年目でしょう? そうしたら今現在24歳ですよね。
数えって言うのは、お正月が来たら一つ年が増えるんだから、先生は数えなら25歳…あれ? 最初のお正月で2つになるんだったかな?
とにかく、24歳ではないですよね。」
「い…いいじゃん、実質24歳なんだから…。」
「だけど他の先生方は、みんなちゃんと数えの年なんですよね。」
「………要するに、祥太郎先生は俺たちをたばかったわけだ。」

慎吾がゆらりと立ち上がった。大きな手で、みんなが車座になって囲んでいる豆を一掴み握る。
「するとなんや、センセも鬼になる資格ありありや、言うわけやな。」
「や…だからもう、済んだ事だってば…。」
「行事は済んでも、俺の気持ちはまだすんでへんのや。」

あーあ。先生も、今回ばかりはおふざけが過ぎたようだな。
慎吾が大きく振りかぶった。その手にはこぼれんばかりの豆。狙う先には祥太郎先生。
当然掛け声は一つ。

「鬼は──────外ぉ!」
「きゃんっ!!」
バチバチバチバチッと、機関銃のような豆が、祥太郎先生に全弾命中。しかもこんな近距離。
結構痛かったらしく、先生は頭を抱えてしまった。しかし、それだけでは済まなかった。
雪紀に咲良に隼人…直哉まで、豆を握り締めて立ち上がっている。
そう言えば4人とも、あちこちに焼け焦げを作っていると思ったら、…どうやら祥太郎先生に狙撃されたようだな。

「いっ、痛痛痛ーーーっ! 直哉君まで! 酷いや!」
「ふっ、目には目をと言うのは先生の口癖でしょう。」
「だって、あれは学校行事で! ぎゃんっ! 痛いってばっ!」
「あんな行きすぎた行事がありますか!」
直哉もあれで切れると怖い奴だからな…。

「こっ、校内暴力反対! ああ、教育の荒廃! 酷いやみんな! 荒れる生徒達っ!」
先生もだいぶ混乱しているらしい。なにか標語のような言葉を次々並べると、半べそで生徒会室を出ていってしまった。
「…いいんですか、直哉…。」
「たまにはいい薬です!」
相当お冠のようだな。

「それにしても、白雪! ようやったで! 今まで祥太郎先生をやっつけられるのは誰もおらんかったんや!」
「えっ…、俺はただ、祥太郎先生が数えで年男だって言うのは変だなって思っただけで…別に他意は…。」
返って白雪がおろおろしている。
なるほど、祥太郎先生みたいなタイプには、こういう、天然みたいな奴が強敵になるわけだ。

なんとなく頼りない咲良と瑞樹を残して卒業してしまうのは不安だったが、その不安が払拭された。
私たちの計算では、それは隼人の役目だったが、思わぬところに最終兵器が残されていたわけだ。

「べっ、別に俺は…祥太郎先生をやっつけたつもりはありませんって…。」
うんうん、たのもしいぞ、白雪!