2005年 3月 20日(日)

卒業式 2

緊張した面持ちの1年生が私たちを迎えに来てくれた。
整列して卒業式会場となっている講堂へと向かう。
思えば、整列など私の最も苦手とするところだった。
誰かに頭ごなしに命令されるのが、怖気が走るほど嫌いなのだ。
だが、これも最後と思えば、厳かな気分にもなろうというものである。

広い講堂に入って用意された席に着けば、嫌でも見知った顔が目に飛び込んでくる。
長身ぞろいの端っこのクラスで、それでもなお頭ひとつ飛びぬけているのは慎吾だ。感心にも神妙な顔をしている。
その隣には、神代君も座っているようだ。
そして、ちゃっかり舞台裾の役員席についているのは、雪紀と直哉だ。
凛と立つ咲良の後ろで、何かしら指導をしているらしい。
最後のお役目といったところか。


そうして、ざわついていた会場が次第に静まり返っていき、やがて咲良が壇上に上がった。
澄んだ声で、卒業式の始まりを宣言する。

いくつかの退屈な話を経て、卒業証書の授与が始まった。
もっとも全員が壇上に上がるわけでもない。人数が多すぎて、時間がかかって仕方がないからだろう。
校長が声を枯らして、全員の名前を読み上げ、やがて卒業生総代という名目で、雪紀が呼ばれた。

しかし、このあたりから、卒業式の厳かな雰囲気が崩れてきた。
卒業生を含めた生徒全員が退屈してきたのだろう。私語が多く混じるようになってきている。
遠くの方から響く関西弁…あれは慎吾に違いない。あいつめ…。

そのだれた雰囲気を壇上に上がった雪紀は敏感に感じ取っていたのだろう。
卒業証書を受け取って、深々と校長と来賓に向かって礼をした後、やおら生徒のほうを振り返り、仁王立ちになった。

「生徒諸君!」
響き渡る声は、まるで恫喝しているようだ。

「長時間の列席に感謝する。これが卒業証書だ。今、確かに卒業生総代として受け取ったぞ。
我々がここの生徒でいられるのも、あと小一時間のことだ。
毅然とした態度を頼む。有終の美を飾ろうじゃないか!」
そうして高々と、受け取ったばかりの卒業証書を振りかざして見せる。

大きな歓声と拍手が沸いた。そして徐々に拍手が収まると、そこには静まり返った聴衆が生まれていた。
直哉が控えで渋い顔をしている。
あんな派手な挨拶をかまされたら、答辞がやりにくくて仕方ないだろうな。
まったく、雪紀の自己顕示欲も、ここまでくると恐れ入ったとでも言うべきか。

次に壇上に上がったのは、選挙のときに我々に喧嘩を売ってきた2年生だ。
緊張しまくった顔で、手にした文章を読んでいる。が、なんとなくその内容が心がこもっていない。
生徒会長に立候補したときの、滔々とした演説を彷彿とさせるが、こんなに心に響かない送辞も珍しいものだ。
なるほど、今期は彼が学年1位の成績をものにしたわけか。
この、成績だけで生徒代表を決めるというメカニズムも、少し何とかしたほうがいいのかもしれない。咲良や瑞樹が送辞を送ってくれたほうが、どんなにすばらしい言葉を聴けただろうか。
壇上の彼は、満足しきりの様子だが、なんとなく白けた空気が漂ってしまっている。

ざわりと、会場がざわめいた。
答辞に、直哉が壇上に上がったからだ。
我々の学年では、なんでも雪紀が代表に立つのが通例になっていた。今日もみんなそのつもりでいたのだろう。
白鳳の守護神…いつも雪紀の影で目立つことは控えてきた直哉が壇上に上がる。そこになにか予感を感じさせるのだ。

直哉のたくらみを正確に知っているのは、私を含めた数名の生徒会役員だけ。
実は私は、大変ウキウキしながらこのときを待っていた。
直哉がどんな形で自分のたくらみを実行するのか…とても興味深い!

壇上に立った直哉は、会場を睥睨すると、折りたたんだ和紙をザッと広げた。
静かに息を吸って胸を広げ、やがて静かな声で答辞の挨拶を述べ始めた。
お楽しみはこれからだ!