2005年 3月 3日(木)

桃の節句

「天音さん、今日はお早めに戻られて下さいね」

朝、玄関でおばあさまにそう声をかけられた。
本来なら今更、学園に行く必要はないのだが・・・家にいた所で退屈でしかないし、行ったら行ったで咲良達の手伝いと称して、生徒会室に篭っていられるのだ。
白鳳の卒業式は他の高校に比べて、遅い。
来週末まで、残されたわと僅かな時間を・・・学園で過ごすのもオツなものではないだろうか?

「早目って・・・今日は、なにか用事でもありましたか?おばあさま」

私がそう答えると、おばあさまは大仰にやれやれ、と溜息を付かれた。

「本当にもう、これだから殿方は。今日は桃のお節句じゃないですか」

・・・・・・・・そういえば、そうだったな。
先月、おばあさまと母が嬉しそうな顔をしてお弟子さん達とお雛様を飾っていた気がするぞ。

「それでね?今日は野乃香ちゃんもお招きしてありますから」
「・・・・・・・・野乃香をですか?」
「ええ、そうですよ?何か、都合の悪い事でもおありでしたかしら?」

いいえ、別に。
都合の悪い事なんて何もないですよ。
単に慎吾と、映画でも見に行こうかと約束をしていただけなんです。
とは・・・おばあさまには言えないな。
慎吾に諦めてもらうしかあるまい。

「わかりました、用事が終わったら戻ってきます」
「ああ、それから」

そういい置いて鞄を持って立ち上がった私におばあさまは尚も声をかけてきた。

「皆様もお呼びしてはどうかしら?どうせお食事も、おやつも沢山作りますからね?」

にこにこ、にこにこ。
おばあさまめ・・・随分と、ここ暫くの間に味を占めてしまわれたようだな。
そうなのだ。
おばあさまは咲良や瑞樹や白雪が・・・事の他、お気に入りのご様子なのだ。
この所、行事がある度に皆がおばあさまのお料理を目当てに誘うものだから・・・すっかりその気でいらっしゃる。
まぁ、それがまた・・・この人の可愛らしい所でもあるのだが。

「・・・わかりました、ちゃんとおばあさまを喜ばせてさしあげますよ」
「・・・ふふふ、天音さんったら」

はんなりと笑うおばあさまは、大変可愛らしいのだ。

「では、行って参ります」

そう言って外に出れば体に感じる風は未だ、冷たい。
花冷えと呼ぶにはまだ早いかも知れないが。
それでも今日は賑やかに、楽しく過ごせそうだな。