2005年 3月 5日(土)

桃の節句 2

生徒会室でゆっくりお茶を楽しんでいると、咲良たちがぞろぞろやってきた。
私が手招きすると、無邪気な顔をしてよってくる。

「あなたたち、今日の放課後、お時間ありますか?」
「え? 特に予定はありませんけど。」
卒業式の草案もおおよそのところまとまっているので、今日当たりは暇らしい。

「おばあさまがお呼びなのですが、我が家までいらしていただけませんか?
桃のお節句で、ちょっとしたご馳走を作られるようですよ。」
「「もちろん行きます!」」
咲良と瑞樹の一糸乱れぬ返事。さすがおばあさまによく餌付けされている二人だ。

「あの…、桃の節句って女の子のお祭りでしょう? 俺たちが伺って、ご迷惑なんじゃ…。」
白雪は慎重だ。脇で隼人が嫌そうな顔をしているのも面白い。
「おばあさまがご招待してくださるんだから、遠慮したら返って申し訳ないよ。」
「そうそう、隼人ならともかく、白雪ならぜんぜん問題ないし!」
「あのう…それって…。」
そんな言われ方をしては、白雪だって混乱するって。

「集まって何の相談だ?」
いつにもまして、尊大な態度で雪紀が現れた。後ろにはちゃんと直哉もいる。
つくづく我が校の生徒会OBは暇人ぞろいだな…。
「あっ、雪紀さん、天音さんのおばあさまがひな祭りにご招待してくださって!」
「今、みんなで行こうねって言っていたところなんです!」
「おい…。」
隼人がげんなりした顔をしている。いつの間にか参加させられることになってしまったな。

「どうです、あなたたちもぜひ。」
「しかしな…ひな祭りなんだろう?」
興味なさそうに雪紀がつぶやく。
「おばあさまのリクエストは、皆さんでって言うことでしたから、あなたたちも連れて行かないと、私が締め上げられてしまいます。」
おばあさまはそんなことは絶対なさらないが。

「うーん…そうか。どうせ放課後でいいんだろう?」
雪紀はぶつぶつ言うと、そのまま回れ右をして出て行ってしまう。直哉も後に続いた。
行かないとは言わなかったから、おそらく参加してくれるつもりなのだろう。
慎吾の動向など、私の一言でどうにでもなるし。
すると皆さんでというと…後は祥太郎先生か。

祥太郎先生には、そういえばここしばらく会っていない。
この間の直哉による拉致監禁のあと、照れくさいのだろうか、ぜんぜん生徒会室にやってこないのだ。
「白雪、祥太郎先生を呼んできてください。」
早速特命を出す。おとなしくてまじめな白雪に呼ばれれば、祥太郎先生だって四の五の言わずにきてくれるはず。

案の定簡単に呼び出された祥太郎先生は、のほんとした顔をしてやってきたが、生徒会室に我々がいるのを見ると、くるっと向きを変えて逃げ出そうとした。
嫌そうな顔をした隼人が、それでも私の命令に逆らえずに祥太郎先生を捕まえる。

「なに〜! 僕まだいそがしいんだからっ!」
「先生、今日の放課後、うちにいらしてください。場所はわかりますよね。」
「わかるけど、でもなんで! 僕これからまだすることが…。」
「おばあさまがお呼びなんです。」
途端に祥太郎先生は困った顔をした。

大体において祥太郎先生は外面がいい。
内面がすっかりばれてしまった我々にはともかく、おばあさまにはまだまだイイコのままの印象でいたいはずだ。

「桃のお節句のパーティーですって! 先生もお呼ばれしようよ!」
「そうそう、みんなで行くんだから!」
「みんなって…いつものメンバーだよね。」
祥太郎先生は思い切り顔をしかめた。
「直哉君も行くんでしょ。」

「僕、個人的に、直哉君とは適正な距離感を保持する必要があって…。」
「なに言ってるんですか。あんな派手な痴話げんかを繰り広げておいて。」
「ちっ! 痴話げんかじゃないもん!」
しかつめらしい顔を作ってもったいぶっていた祥太郎先生だが、ちょっと水を向けるとたちまち真っ赤になって幼い反論をする。

「えーだって先生…。」
「ねえ…。」
咲良と瑞樹までもがニヤニヤして先生を突っつく。
「ちがーう! あれは! …そう、進路相談! 朝まで生進路相談!」
「へえ…ずいぶん密着して進路相談をしたんですね。」
もう一押しすると、先生はあせりまくった顔でワイシャツの襟元を押さえた。
…するとそこにもキスマークが存在するわけだ。
祥太郎先生が自分から見ない位置…後ろ襟の生え際にも濃厚なやつがついていることを、先生は…気がついていないのだろうな。

「進路相談しただけなら、別に直哉を避ける必要ないじゃないですか。」
「う…。」
「決定ですね。せっかくおばあさまがお誘いくださったんですから、ぜひ先生もいらしてくださいよ。」
祥太郎先生は律儀な質だから、こう言い聞かせておけば大丈夫。

こうして私は、まずは無事に私の使命を果たした。